第29話 一体何が?

 レジスタンスの残党は、以外と生きていた。

 森の中に、簡素な小屋を建て、集まって暮らしていた。

 その数、このエリアには、三千人くらいだろうか?


 細々と獲物を獲り、日々を暮らす。

 フランスには、もともと二百万人以上もナチュリスト達がいた。

 元々そんな彼らにとっては、良い時代なのかもしれない。

 抑圧されず、フリーに暮らせる。


 だがまあ、そこに現れた若い日本人と、欧米系。だが、見ない顔。

 頭に獣の耳を付けている女の子達。


「生活には困っていないのか?」

「ああ、困ることばかりだが、意外と楽しんでいるよ」

 初老の人が応対をする。


 祭り上げられて代表になっていた、マリアンヌ=ベルナールは、今は酒とセックスを堪能しているようだ。


「そうか、何かあれば、連絡をしてくれ」

「これは?」

「衛星電話だ。周囲にある魔力で動くから、充電切れはない」

 そう言うと、怪訝そうな顔になる。


「周り。魔力?」

 首をひねっている。あまり認識をしていないようだ。


「ああ。あんた達だって使えるだろ」

 掌に、炎を出してみる。


「おお。それは魔法か。噂では聞いていたが」

 そうしていると、遠巻きにしていた人たちが集まってくる。


 わざと、何もないところから、赤白ロゼのワインをケースで取り出す。

 最近作り始め、まだ、一年も寝かせていないワインだが、少し魔法で熟成をさせてある。


「まあ、頑張れ」


 そう言って、輸送船へと転移をする。


「消えた。彼らは一体?」

 手元には、衛星電話が握られていた。


「この地方のレジスタンス達は、あれで最後ですね」


 俺達が、こんな事をしているのは、企業連合から門前払いを喰らったからだ。


「日本人だと? 中にも居るが連れて帰ってくれ。アジア人は必要ない」

 塩でも撒かれる勢いだった。


 日本人達は、かえりたい人たちだけ連れて帰ろうとしたが、結局放り出されたことで心が折れたようだ。

 帰る道々、出身を聞き各地へ配達をする。


 その時、日本の各地で、以外と自然と共生をして頑張っている姿を見た。

 一度経験した豊かな生活だが、三年も経つと諦め、物がない生活に慣れるようだ。

 意外と人は強い。


 そして、地元を見て落胆し、船から出ようとしない人たちは、ニュータウンの一角に住まわせる事になった。

 今度は、いきなりの普通の暮らしに驚き、どうやってと質問攻めにあう。

「ここで暮らせば、理由が分かります」

 そう言って御茶を濁す。



 企業連合は、言ってしまえば社会主義。

 個人に自由はなく、すべては会社の物。

 生産物は吸い上げられ、働きに応じて分配される。


 その基準となる貢献率は、個人では一。とりまとめた班長で二。その上でと役職により割合が決まる。つまり貧乏人はずっと貧乏人という事。

「出世すれば良いだけ」

 そう言うが、畑での生産でも決まり事があり、勝手は出来ない。

 その中で昇級? どうやって。

 班長からの推薦は、有色人種には回ってこない。


 家族四人で、一日小麦粉がどんぶり一杯程度。

 それでも何とか、暮らしていた。


 だが、いきなり、兵が来て放り出された。

「日本に帰るが、どうする?」

 若い男は言う。


 否応なしに帰ることに決めた。

 背後で、門はもう閉じられたし、あの生活が今からも続くのは耐えられなかった。


 そのあと。

「少し景色が変わるけれど、気にしないで」

 そんな事を言われる。


 そして一瞬で景色が変わった。

 白い部屋。

 脇の方に段ボールが詰まれていたので、倉庫なのだろう。

「はい。自由にしていただいていいですが、食堂や仮眠室。お風呂もあります。ご自由にどうぞ」

 そんな声がかかる。


 女の子が、食堂という紙を持っている。

 結局皆がそこに並ぶ。


 都市部が無くなり、人は減ったが、それでもあの中にいただけで千人以上いる。

 中へ入れず、地方に散らばった人たちはどうしているだろう?


 そんな事を思いながら、付いて行くと良い匂いがし始める。

 カレー。丼物。定食。

 メニューは三種類だが、どんぶりは、卵、親子、カツ、牛、豚と各種ある。

 そして、うどんやラーメン。

 定食は、焼き魚と、焼き肉の二種類のようだ。


 今どこに自分たちが居るのかも判らず、皆列に並ぶ。

 子供達はフランスで生まれ育ったために、日本食にはあまりなじみがない。

 むろん、たまに思い出して作る家庭料理は別だが、仕事の関係でフランスの料理を食べ歩いていた。そう自分の会社があった頃の話。

 暗黒の三ヶ月が終わり、活動を開始したが、連絡網は途切れ、どうしようもなかった。原発は安全のため停止して、普及をしなかった。


 自動車関連や農機具。その周辺会社が沢山フランスには存在をしていた。

 だが、ライフラインの停止と、食糧不足。道路も、復旧出来ない。

 やがて、企業体が何かを始め人を集め出した。

 そう最初は良かった。

 だが、排斥が始まる。


 耕作地は限られている。

 リスク計算が行われたのだろう。

 それでも家は、元の平和だった時の付き合いから残して貰ったが、地位は低かった。法も、取り締まりも無く、会社の方針がすべてだった。


 ぼーっとそんなことを考えていると、娘が腕を引っ張る。

「パパ。お外が見たい」

「そうか」

 そう言っている娘を持ち上げ、一緒に外を見ると、窓の外には雲海。

 動いている様子はない。でも、さらに高度は上がり、他の船? も浮かび上がってきた。

 その中の一機は、子供の頃に見たアニメの船。でっかいロボットが載っている船だ。

「すごいね。お空の上だね」

「そうだね。宇宙にまで行くのかなぁ……」


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