第27話 問題は、深刻。

 その日、鈴木先生は、無表情な笑顔で教室に現れた。


「やあ皆。教科書に載っている問題など…… 面白くないよね」

 完全にキャラが変わっている。


「誰あれ。本当に先生?」

 クラス内がザワつく。


 いきなり黒板に書き始める文字。


 郵便切手の問題

 切り離されていない、一列に並んだn枚の切手がある。

 一枚の切手の上に、全ての切手を折り込む時。左端の切手を、表向きで一番上に折り込む方法は何通りか?


「どうだ、簡単だろう」

 そう言って、にまにましている。

「出来た奴から、提出」


 だが、知っている奴がいたようだ。

「先生これ、数学の未解決問題ですよね」

 俯いて何かをしていたが、ぬううと先生の顔が上がる。


「ひっ」

 その顔は、表情が完全に抜け落ち、ゴースト系モンスターだと言われても信じられる。


 俺は先生の顔写真を撮り、略歴を記すと、ファジェーエヴァ側の端末へ流す。

「恋人募集。誰か拾ってください。各種予防接種済み」

 だが、今の魂が抜け落ちた顔では、駄目だったようだ。


「これって、死霊系モンスターですよね。息吹様、奴の言う戯れ言に惑わされてはいけません。ヘッドショットをするか聖魔法で浄化をしてください。正しきものでも心に入り込まれると向こうに引っ張られ、悲惨なことになります。早く……」

 などという、返信がアデラからやって来た。


「あー違うから。心配するな。流したとおり俺の先生だ」

 そう返しながら、生きが良いときの写真を探す。


 だが、狙ったというのもあるが、ろくなものが無い。

 体育祭で、体操服の女の子を、変な目で見ている先生。

 階段下から、上を見上げる先生。

 自動販売機の釣り銭口に、指を突っ込む先生。


 どれもこれも、ろくなものが無い。


 撮り直そうにも、完全に死霊となっているから、駄目だろう。

 そこで、俺の手が尽きた。

「先生の写真がいるの?」

 杏から、写真がやって来た。


 楽しそうに、遠足先で女の子達と撮られた写真。

 鼻の下が大分長いが、他に比べれば十分だ。


 そういえば、ネットは、復活した。

 グローバルなローカルネットワーク。

 よく分からないが、復旧をしてきた通信圏内だけで、ルーティングをして独自通信網が今動いているらしい。


 海外向けの通信ケーブルなどは、完全にオフラインだから仕方が無い。


 だが俺は、ファジェーエヴァ側の端末を、今メインに使っている。

 衛星も、コントロールできる優れもの。


 そう、衛星の範囲内なら通じる。


 まあ、それは良い。

 貰った写真と差し替え、同じように送ってみる。


 すると幾人かから、返信がやって来た。

「流石に神谷様からのお話でも、一度お会いをして判断をしてよろしいでしょうか?」

 そんなのが、五人ほどやって来た。

 移住者側にも流したからな。

 三万人の半数が女性として、既婚者を外して、年頃だけ。

 五人は多いのか?

 ふと思ったが、気にしない。

 

「先生。これを見てください」

 ぬぼーっと顔が上がる。


 そして、画面を見ると、少しずつ顔に赤みが戻ってくる。

「おい、これ本当か?」

 一瞬喜んだが、また顔が曇る。


「行ったらまたお前に繋げとか、お前の方が良いとか言い出すんじゃないか?」

「いえ…… 当日は、顔を出さないようにしますので」

 そう言ったら、渋々納得をしてくれた。


 落ち合う会場は、居住区。つまりニュータウン内にオープンをしたお店。

 向こうの料理を出すようだ。


 出来たときに行って見た。材料は、ニュータウンの外れに飼育場がある。


 こちらと、少し生き物が違うのだよ。

 鳥は、真っ赤な鳥で、火口とかに住んでいる鳥らしく、向こうでも高級品。

 鶏肉かと思ったら、グラウンドドラゴンという、でっかいワニのような奴とか。

 牛が、グラスバッファローと言って、体高で三メートルくらいある。

 野菜も、文字通り生きがよく、農場を走り回っているし、なんだかね。


 ニンジンとかも、引っこ抜くと叫び声を上げる。

 昔誰かが召喚され、帰ってきてから、マンドレイクの伝承を広めたのではないだろうか? そういえば、グラスバッファローも、たまに二本足で立ち上がり威嚇をするな。ミノタウロスもそうかもしれない。


 豚は、ワイルドボア。猪だな。これも大きなものは、体高が三メートル近い。


 先生は翌日、学校を休んだ。

 店の都合上、昼と夕方は、予定が入っていて、一五時に集合となった様だ。


 案内は、シーヴにして貰い、そのまま司会をする。


 当然来たばかりの彼女達は、こちらの情報に疎い。

 だが、じいちゃんの存在が、そのハードルを上げる。


「神谷さまが、お力を尽くすという事は、あなたもハイヒューマンなのかしら?」

「はっ? ハイヒューマン? 私は普通の地球人。日本人……」

 相手方は、翻訳用の魔導具が調子が悪いのかチェックをする。


 だが、ファジェーエヴァ人同士では、チェックの仕様が無い。


「ドラゴンを倒せます?」

 とか、

「フェンリルとお友達とか?」


 そんな事を聞かれまくったようだ。


 首をひねり、手応えはあるようなないような感じで帰ってくる。


 話を先生から聞き、ファジェーエヴァ人に対して説明をする。

「聞け。勇者光希様。そして、御孫様の息吹様が特殊である。他の地球人は我々と何ら変わらない。そして、勇者光希様と御孫様の息吹様のことは、地球人側にも秘匿とする。来たるときに伝承共々お披露目をするからな」

 そんな訓告がされたようだ。


「では、町中をものすごいスピードで駆け抜けたのは、息吹様だったのか?」

「そしたら、あの女性は?」

 そうして、つがうと、ハイヒューマンになれるのではと、憶測が生まれ、囁かれるようになる。

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