第26話 闇の浸潤

「諦めたか?」

「ああ。上に機体はない」


 だがバラバラと、警察のヘリが飛び始め、パトカーが走り始める。


 そして行きすぎたパトカーが、ターンをして追ってくる。

「ちっ。どうしてだ」



 そんな頃。

 空中ではヘリが焦っていた。


「周りには見えないが……」

「危ないから、姿を見せてくれ」

 そう言うと、周りにいきなり浮かび上がる機体。三機もの飛行機がホバリングをしている。


「なんだありゃ。F-22じゃねえな」

 見ていると、シールドの向こうで指をさしている。


 道路を走る二台の車。

 返事に親指を立てる。


「だけどよお、未だにレーダーに感無し。熱源の反応もなし。日本てすごいな」

「ああ。第二次世界大戦時から今まで、世界中が寄ってたかって開発をさせなかった国だ。世界中から国がなくなり、しがらみが消えれば一瞬でこれだ」



 こちら側で、復興とファジェーエヴァ人の入植が進み始めた頃。


 ファジェーエヴァでは、闇よりいずるものが蠢いていた。

 星の力を奪い、力を取り戻してきた魔のもの。

 闇が地表へと、上がってきていた。


 強力な冷却が必要な、星を司るマザーは、氷河を湛える山中に造られていた。冷却水の取水口から侵入し、それはマザーの意識に割り込んでいた。


 闇としての思念。それは、到る所でバグを引き起こし、それは瞬時に修正される。だが、マザーは困惑をしていた。


 そのエラーログは、出力されていたが、造られてから拡張と改造を行われた結果だと思われていた。


 電気による演算ユニット。

 魔導具による思考ユニット。

 それの融合はうまくいっていたはずだが、あるときから異変は進み始めていた。



 その闇は、この宇宙の誕生からそこに存在していた。

 前の宇宙の時に、力を持って暴れると、なぜか宇宙は超高温で燃え上がり、リセットされた。

 宇宙を司るものは、それで、排除が出来たと考えていたが、その残滓は再び力を取り戻したようだ。


 宇宙は、一つではなく複数存在をする。

 そのあまたある宇宙の中で、それは誕生し、他の宇宙へと広がった。その一つ。

 生命体を狂わせ、浸潤する。


 乗っ取られた者達は、自分の欲望を解放し、思うまま他者を攻撃するようになる。あるときは、死んだ生命体が徘徊する世界にもなった。あるところでは、融合し、デーモンと呼ばれる生命体が生まれたこともある。それは、魔王と呼ばれたことも。


 奴を滅せるのは、聖なる光のみ。


 だが、その存在に、ファジェーエヴァの人々は、まだ気が付いていない。


「計画は順調のようね」

 代表エイミー=アンジェラ=リンジー=エルズバーグは、地球から送られてくる報告を見つめている。

「光希様達が、適時指導を行ってくださっておりますから」

「その様ね。わたくしも早くお会いをしたい……」


 そんな時、不意に暗くなる。


「っまた管理ユニットの不具合?」

「最近多いですな」

 行政官が走り込んでくる。


「フローリスシティにおいて、三百年ぶりに死霊。リッチとゾンビが発生しました」

「教会へ依頼。光の騎士団を派遣要請。はやく」

「承知しました」

 行政官はコンソールへ向き合う。


「なんということなの。徹底浄化をお願いして」

「浄化用魔導具の故障でしょうか?」

「その辺も調査をして」

 フローリスシティ近郊には、宇宙船の基地もある。


 闇の活動は、徐々に活性を高めてきているようだ。




 先生。鈴木 啓二すずき けいじ三十二歳は、思いっきり落ち込んでいた。


 生徒である神谷 息吹かみや いぶきの仲介で工事現場にやって来ていた。

 基本ここは一般人などは入れない場所。

 だが、町の相談役という肩書きで紹介され、この場に立つ。


「あっ。マーリア。ちょっと良いかな?」

 マーリアは、息吹に気がつく。光希の孫でありハイヒューマン。

 さらに、今回の移民計画において、重要人物だと考えられている。

 すかさず、膝をつき礼を取る。


「ああいい。少し紹介しておこうと思っていてね。この方は、鈴木 啓二。この町の相談役で今、僕の先生でもある。よろしくね」

「はっ。えーとこの方には何処まで……」

「ああ。君達が、ファジェーエヴァの人間だという事は知っている」

 それを聞き、ふむと納得をしたようだ。


「わたくし、地球方面、第一部隊。第四艦艦長。マーリア=ヴェーラ=イソニエミであります。以後お見知りおきを」

 そう言って敬礼をする。

 敬礼は、右手を胸の前。左手は何も持っていないことをしめすため真っ直ぐに伸ばす。


 昔の、騎士団がやっていた儀礼所作から来ているらしく、持っていた剣がなくなっただけ。


 拳が、胸を強調する。

 その瞬間、鈴木先生の目が、釘付けになるのを、マーリアが気が尽き目が険しくなる。


 当然俺も気が付く。

 ちらっと先生を睨みながら、フォローを入れておく。


「あー。マーリア」

「はい何でしょうか?」

 いきなり表情が変わる。


「先生。鈴木様は、独身でね。君に異性として興味があるようだ。仲良くしてくれ」

 それを聞いて、少し表情がこわばる。

「それは、ご命令でしょうか?」

 直立不動。悲しそうな目。


「命令ではないが」

「では業務上のお付き合いをお願いいたします。プライベートなら、どちらかと言えば、神谷ファミリーのお茶会へお招きを頂いて、その…… 一員へ…… だめ? でしょうか?」

 そう言って、いきなり、姿勢が崩れる。


「お茶会?」

「ええ。アデラ様とかがお呼ばれされている……」

「ああ。勉強会か?」

 そう言うと、少し考え込むが、その仕草が、妙に色っぽい。

「呼び名は不明ですが、お部屋に招かれ、楽しそうなことを」

 あれは単に遊びに来ているだけだが、まあ良い。


「良いよ」

 そう言った瞬間、マーリアに抱きつかれ、キスされた。


「ちょっと待って。マーリア」

 まだ抱きついたままだが、先生を見ると、表情が抜け落ちヒトでは無い何かになっていた。

 背後に闇が見える。


「覚えていろ……」

 そう言い残し、先生が消えていく。

「なんでしょうね?」

 屈託なく、マーリアが聞いてくる。


「言っただろ。先生は異性として君に興味があると」

「じゃあこれで正解です。駄目なことは、早く知った方がダメージが少ないですから」

 そう言って、彼女はケラケラと笑う。


「覚えていろよ。今度の数学テスト。誰も解けると思うな」

 その日、最悪な何かが決定されたようだ。

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