第22話 錬金術。創薬

 気のせいか、じいちゃんが若くなってきている。

 行動は前からだが、体が。


「じいちゃん。何かした?」

「おお、お前が取ってきたヒュドラの尾で、材料がそろったからな。薬を創った」

 そう言って、にっと笑う。


「ただなあ、副作用がすごい。気合いと根性で何とかしないと、飲んだ瞬間に死ぬぞ」

「じいちゃんで、それ?」

 じいちゃんの弱音。ちょっと驚きだ。


「ああ。まず人をやめ。特訓をしてから飲んで…… どうかな?」

 じいちゃんがそう言うなら、相当だろう。


 じいちゃんは元から少し、人から外れていたから大丈夫だったが、ばあちゃんや親父達はどうかな。


 軽く言った、人間をやめるという事。あの痛みと苦しみは無視して、数日動けないだけと言っていたじいちゃんが、死ぬという言葉を使う。

 相当だろう。


 若く見えるが七十二歳。よく試したな。

 しかも、一気に若い体に戻れるわけではなく、じわじわ。毎回苦しみを受ける。


「まあ、家族には言って見るが、どうかな。各自の判断に任せよう」

 そう言って、少し悲しそうな顔をする。



 まあ、それはそれ。

 そして、シーヴ達の動きが、活性化をする。


「移民が来ます。まず一万人」

「と言う事は、宣言はやめて、徐々に混ざる気になったんだな」

 最初は宇宙船で空を埋め尽くし、侵略者よろしく、やる予定だったようだ。

 それはプライド的にも刺激するし、後々も面倒だ。

 こそっと混ざれ。そう提案をした。

 現在、丁度混乱中だしな。


「そうです。光希様のご意見が、満場一致で採択されました。ほとんどが、こちらで言う欧米人系なので多少混乱はあると思いますが、よろしくお願いいたします」

「判った。町長にはもう許可を取ってあるし、技術支援のおかげで、県の方も何も言わん。もともと、扱いに困っていた国有地。ごっそり貰ったぞ」


 そう、見放された国有林。

 メンテナンスをするだけで、膨大な金がかかる。

 そんな山が、かなりの面積で存在している。


 ニュータウン化。山を切り開き宅地化をする。

 入ってくるのが、少し遠い所からだが、そもそもが、限界集落だらけだった高知県。Iターンの推進という事だ。

 一気に人数が増える。


「まずは、一万か。獣人達は?」

「今回優先的に。半数は獣人です」

「町は分けるのか?」

「今時、差別はあまりありませんが、今下手に分けると、この先で、再燃とか起こりませんか?」

「難しいところだな。移民でストレスがある。力を合わせて、がんばろーとなれば良いが」


 そんな事を、家族会議で決めていく。


「山は、平地となだらかな小山に整地して、広葉樹は再利用。昭和の遺産である、杉やヒノキは使って良いらしいから使おう」


 そう、事が起こる前、円安により国内産の木が少し見直されていた。

 ただまあ、伐採後は植林されず。パネルが張られていたようだが。



 そうして、最新装置と魔法のごり押しで、お迎えの準備は出来た。

 今回の移民船は、角形の五百メートル級。

 内部は、空間魔法で広げられ、快適だそうだ。


 ニュータウン脇の空港へ船が着陸する。

 建てられた家は、向こうでの標準タイプ。

 外側は、樹木系モンスター由来の樹脂製で軽くて丈夫。湿度まで調節する優れもの。地面とは、わずかに浮いているらしい。

 形状は半円の部屋を、通路で繋いだような形が基本で、まるで昔のSFだが、飛行系モンスターからの攻撃を考えると、この形になるとの事。


 ユニットで作成をして、接続は専用樹脂。張るだけ。


 水などは、家の中で循環式。

 基本はすべて魔導具だから、エコだ。


 そう、ファジェーエヴァは長年電動化で文明を進めたが、星の具合が悪くなり、近年は魔導具文明へと、舵を切った。

 基本的には、コントロール用水晶板で、家中の魔導具を制御できる。

 板が無いときは、音声だ。


「まあ基本、家については向こうと同じだから、問題ないだろう。星全体で三十億人くらいだったな?」


「そうですね。何か意味があるかのように、定期的に厄災というか、災害が起こるので」

 端末をいじりながら、アデラが設定をしていく。

 今空港の船に、住民に向けて情報が流されている。


 居住する家の説明と、環境。

 近隣の町と原住民。

 基本ルール。そしてマップ。


 四国山地の山の中。

 周囲の町をあわせて一万人だったのに、いきなり一万人が増える。

 これからどんな事になるのか、予想は誰も出来ない。

 だが、移民の第一歩は始まった。


「到着した事を報告して、各家庭用コンソールと配送システム。輸送船のコンピュータが来たから余裕が出来たにゃ」


 現行は輸送船に乗せてある食糧の分配と、各家庭にあるコンソールで発注。そして空間魔法による配達。

 中間部分は、今回、管理倉庫兼発送センターを造った。


 中では、フォークリフト型と人型のゴーレムが走り回っている。


 コンピュータが在庫状況と減る速度を見て、アラートを出す。

 そのアラートを見て、人が農協なり、生産者なりへ発注をする。

 生産者は、トランスファーチューブへ物を放り込む。


 やっと流通システムが、組み上がったようだ。

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