第6話 言い訳と偽装

 都合が良い事に、他の皆には、あのでかい宇宙船が見えないようだ。


「へー、猫を飼いだしたの?」

「ああ」

「見に行って良い?」

「人見知りをするから駄目」

 今日は、ぶら下がっていなかった。


 そんな事を言いながら、通学中。

 昨日の、妙なご機嫌も直っていた。

 それどころか、妙にチラ見をしてくる。


 そう、杏は二回の非常事態。

 あの木から救助されたとき、不思議な物を見た。

 蔓が切れ、木だけが燃え上がる。

 その炎は、対象の木だけを燃やし、他の木は燃えなかった。

 それも、あっという間の出来事。


 家に帰って、「息吹のばか。鈍感」などと言っていて、ふと思い出した。

 木の蔓が切れ、スチャッと受け止め、いきなり揉み出したことは、置いといて……


 あれは何?

 と、今更考え出した。


 いまは、スマホは持っていても、ネットには繋がっていない。


 だが、どう考えてもおかしな話。


「あれって魔法よね。皆が、火を使えるようになったとか言っていた…… でも、あれは。そんな、かわいいものじゃなかった……」


 まだ、地球が平和だった頃に、息吹が誕生日にくれた。

 変なキャラクターの、ぬいぐるみを抱きしめる。


「いぶっちはどう思う?」

 元のデザインは、不細工な猫の先生だが、偽物のようで、少し違う。元は、白茶グレーだが、二色。白と黒。しかもハチワレ。


「何これ、偽物じゃん」

「馬鹿野郎。何が偽物だ。かわいいだろうが」

 そう言って見つめられると、「そうだね」と言ってしまった若かりし日の自分。


 そんな事があり、切っ掛けをつかめれば、魔法を教えて貰おうと考えた。

 きっと二人っきりで……

 距離を、近づければ……


 まさかその妄想は、「本気か?」と言う言葉と共に、実に簡単に、実現される事になる。

 私のバカ。とか、後悔先に立たず。とか色々思いながら。


 そう、非常識なおじいさんと、知らぬ間に非常識になってしまった、息吹によって叩き込まれた。

 ついでに、見知らぬ外人さんと共に。

 にっくき、猫と共に。


 杏がにへにへと笑顔で、見つめてくる。

 授業中に、ふと目が合う。

 すると笑顔で、手を振ってくる始末。


 怖い。

 何だよ一体?


 それは、帰りに告白をされる。


「ねえこの前、使っていたの魔法でしょ?」

「うん? そうだよ」

「教えてくれない?」

「あれは適性があれば、思うだけで発現できる。魔力を、物理的な現象へと変化させるだけだ」

「そんな簡単に言うけど、出来ないんだもん」

「だもんて、お前なあ」

 上目づかいのあざとい感じで、お願いをしてくる。


 まあ断るのは無理だが……


「じゃあ、じいちゃんに聞いてみるけれど、秘密を聞いたら逃げられないぞ」

「えっ。そんな大事おおごとなの?」

「ばかだなあ、世界の深淵を覗く行為だ。気合いが必要だ」

「うん。わかった」

 そう、私は深く考えずに、返事をしてしまった。



 その頃、超空間通信を受け取った本国。

 中央政府マグナコーキでは、狂喜乱舞を行っていた。


「なんということだ。本当に、光希様が生存されておるとは。それに、お住まいの四国という所では被害が少なく、経済活動が復活をしてきている。復旧のお手伝いをして、我らの存在感を強めれば」

「忘れたのか? 破壊をしたのが我らだという事を……」

「あっ……」

 大いなる朗報と、大いなる悲報。

 

「だれか、敵を作り、そいつが攻撃をしたことにすれば?」

「敵だと?」

 ふと、議会の誰かが、案を出す。


「ええ。マザーの反乱とか?」

「そんな事…… 良いな。マザーを口止めをして、探査ユニットを回収。すぐに行え」

 そう言っている間に、妙案が浮かんだようだ。


「敵軍の名称は、どうなさいます?」

 エイミーの顔が、悪い笑顔に変わる。


「そんなもの…… そうだ、マザーではなく。魔王だ。うん。そうしよう。わが星を壊したのも、魔王軍の仕業にすれば良い。そうすれば、かわいそうなわが星の民。救ってくれと懇願をすれば」

 まるで、悪代官と、大店の商人のような笑みが、場内に広がっていく。


「そうでございますな。くっくっくっ。早速、手はずを整えます」


 星中に触れが出される。

「話が主星が、活動を停止をしたのは魔王が原因なり。別の銀河に、移住を行う。その星は、勇者神谷 光希かみや こうき殿が、存命だぁ」

 とまあ、ぶち上げた。


 色々な学者には、箝口令が出される。

 事実を告げても、誰も得をしない。


 そんな、アングラな活動が開始された。



 そして、猫系獣人シーヴ達は、死を感じていた。

 杏に先行し、水曜日。

「卓越した魔法を極めたいです。ぜひ、ご指導を」

 などと言ってしまった。


「おう、そうか。なら、息吹が学校に行っている間暇だし、行くか?」

「ぜひ、お願いをします」


 男性ユーディット=テクラ=イリーネ=ヴェルターとフィリップ=ルーペルト=ルンド。

 女性ソフィー=マルチェ=ペトラ=デ=コーク、クリームヒルデ=レオニー=ヘルツベルク、ロッタ=ソイントゥ=リュオサ。


 憧れの、光希。

 年は取っているが、背中は伸び、その動きは、自分たちと比べても遜色が無い。

 白髪の老人の後ろに、金髪碧眼の者達五人。そして、猫系獣人シーヴ。

 ダンジョンまでは、当然魔法で姿は消している。


「さあ、此処だ」

 その先に、一歩踏み出した瞬間。

 常識が壊れた……

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