第7話 ねこ? ふーん

 見知ったダンジョン。


 本国においても、研修で幾度も入った事がある。

「中は同じですね」

「若いから、洞窟型か」

 そう言って、彼らが周囲を見回していると、光希は一気に走り始める。


「やばい。付いていけ。身体強化」

「おう」

 だが、光希は、床を走らない。


 曲がりくねった道を、壁や天井を走りながら、「だれ?」と言わんばかりに、顔を出したゴブリン達が破裂していく。

「この速度で、魔法を撃って、この正確さ」

 だが、驚くのはそこからだった。

 ワンフロア、五キロほど。


 それを、四分程度で駆け抜ける。

 おおよそ、時速八十キロくらい。


 当然。一フロアすら、ついて行けない。

 一人、身体能力の違いから、シーヴのみ付いていく。

「猫系獣人は伊達じゃない」

 そんな事を、叫びながら……

 それは、気合いを入れる、魂の叫び。


「何だよ、ひ弱だな。八百年だか、経っているから期待をしたのに」

 そんな事を言われる始末。


「あんた達、もっと、気合いを……」

「まて。理解はしても、体が……」


 壁を走行中に、クリームヒルデが、躓き落下する。

 それを見て、つい手を伸ばしたユーディットが、天井で躓く。


「うおお、ユーディットぉ」

 

 フィリップが声をかけるが、ものすごいスピードで、二人は転がっていく。


「ちっ。仕方ねえなあ」

 光希が戻ってきて、浄化と治療を行う。

 むろん変に方向へ曲がっていた手や足は、泣こうがわめこうが、一瞬でまともな方向へ戻される。


「行くぞ」

 そう言って、今度は床を走って、たまに壁を走るくらいに落ち着いた。


 だがそれは、十層くらい続いた。


 そして、浅いが階一つで、大きくモンスターが変わる。

 それは、若いダンジョンの特徴。


 古ければ深く、モンスターの変化もなだらか。

 だが十階で、すでに、超巨体が現れる。

「さっきミノタウロスだったのに、もうベヒーモスが」


「おう、倒してみるか?」

 そう聞かれるが、答えが出せない。

 せっかくの勇者のお誘い。

 だが嬉しくない。


「いえ。お願いいたします」

「そうか」

 そう言って、頭を殴り、顎が跳ね返り地面から浮き上がるときに、下からパンチが顎先へとさらに突き刺さる。


 前足が浮き上がる。

 その時に、胸へとパンチ一閃。

 魔石がはじける、小気味よいパキッという音が聞こえる。


 それだけ。

 とんでもない短時間で、ベヒーモスが死んでしまう。

「何という強さだ。年は召したが、衰えがない」


 一同は、驚く。


 そしてさらに驚くことになる。

 いきなり拘束をされる。


「おい。シーヴだったな。強くなりたいか?」

「えっ。あっはい」

「ちょっとこっちへ来い」

「えっ。まだ現役。えとっ。心の準備が……」

「何をぐだぐだと。こっちだ」

 フロアの奥へ、連れて行かれる。


「秘密だからな。黙っとけよ」

 いきなり、不破壊はずだが、ダンジョンの壁が壊される。

「えっ?」

「秘密だぞ」

 そう言って、引っ張り込まれる。


 お付きの者達は、きっちり拘束をされている。

「ああ、大使がやられてしまう」

「いや命令なら、仲良くなれだから良いんじゃ無いの?」

「そういう命令か?」


 そんな事を言っていると、破壊されて突然現れた隠し部屋。

 そこから、いよいよもって怪しい声が聞こえ始める。


 そう。内緒にしようと決めた、一子相伝がもう破られた。

 クリスタルを取り込み、呻き回るシーヴ。


 本人は体がバラバラにされ、再構築をされる痛みと苦しみ。それと闘っている。

 だが余所で聞くと、とても人に言えないことをしている声に聞こえる。


「わー、そんなにすごいんだ」

 ソフィーやクリームヒルデ。ロッタがもじもじし始める。

 そして、ユーディットとフィリップは体の一部が反応してしまう。

 拘束されていて動けないのに、ぽっこりと目立つ。



 学校から帰ってきた、息吹。

「あれ? じいちゃんは」

「さあ、見ていませんよ?」

 母親にそう言われて、外を見に行く。

「掘りに行ったかな?」

 杏のことを聞こうと、昨日言っていた目的のダンジョンへ飛び込んでいく。



 そして最下層の十階までくると、ボスは倒され、例のお付きの人たちが立っている。

 そして、奥から、悩ましい声。

「ああ。じいちゃん与えたのか」

 知らない者が聞いたら誤解するような、台詞を吐き奥へと進む。


 皆は、覗いていいの? と考える。

 それと同時に、一人で来た息吹に驚く。


「じいちゃん。内緒にするって言っていなかったか?」

「おう来たのか? 復活にはまだかかるだろうから、担いで行ってくれ。わしじゃあ、ばあさんに焼き餅を焼かれるからの」

 まあ見た感じ、事後だな。


 彼女は、べったりと汗をかき。

 髪の毛が、頬に張り付いている。

 目は潤み、顔は赤く。

 息をするのが、やっとという感じ。

 うーん確かに。色っぽい。


 息吹はひょいっと、シーヴを背中に負う。

「じゃあ、帰ろうか」

 そう言って外に出る。


 立っていた連中は、シーヴの顔を見た瞬間、なんだか目をそらす。

 バインドを解除してやり、出口へ向けて走り出す。


 彼らは、すぐ後を追いかけてきたが、追いつけない。

 じいちゃんにもすぐ抜かれた。


「何で、光希様は別としても、シーヴを背負った息吹様まで……」


 そうして、一足先に外へ出て、家に近付くと、杏が立っていた。

「おう、どうした。まだ、じいちゃんには聞いていないぞ」

 そう聞いても、目が細く睨んでいる。


「ねえ。飼っている猫って、もしかして、それ?」

「ああ。そうそう。今ちょっと体調が悪くて」

「ふーん? 彼女がいたんだ……」

「彼女? 違うよ」

「じゃあ、遊びなんだぁ」

 言葉を重ねるたびに、杏の様子がおかしくなっていく。

 髪の毛が逆立ち、そう。修羅と呼べば良いだろうか……

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