第3話

 絶望的だろう。

 遠目に勇者一行の戦いを眺めているクジラは冷静に戦力を分析する。

 あの中で一番強そうなのは魔法使いだがあの一撃を食らってしまってはな、満足に魔力を操作できないだろうから魔法の発動も難しいだろう。

 騎士は人間としては一流だが俺の知る中では3流ほどの強さだろうか。

 聖女に至ってはここまでの人払いの結界でほとんど魔力を使ってしまっているし使い物にならん。

 そしてあの勇者、弱すぎる。

 聖剣すらまともに扱えていないあれが勇者を名乗るとは・・・。

 人の世も終わったな。

 

 悪魔が姫を持ちあげたところで彼も動き出す。


 とはいえ、まだ死ぬには早いんだよな。

 魔力を変質させ彼は駆ける。


 刹那。

 彼女達には雷が落ちたように見えただろう。

 その一瞬で悪魔の腕を落とし姫を救出し聖女の横に回復させろと置く。


 その姿を見たときエフィルはまるで絵本で呼んだ救世主のようだと。

「勇者・・・」

 そう、勇者のように見えた。

「貴方様は」

「誰だ貴様」

 聖女の問いと一緒に悪魔も問いかける。

「ザイオンだったか、選ばせてやろう、逃げるか死ぬか」

「ア刃ハHAは覇ハハ、面白いこといいますね私の方こそえらばs」

 だがその言葉の途中でクジラが光速で蹴り飛ばし、もう片方の顔面を掴み蹴飛ばした方に駆ける。

 勇者一行から絶対に見えないくらいまで森の深くに入っていく。

「なんだ・・・貴様!何者だ!?」

 ザイオンの方へ掴んでいた一体をぶっ飛ばし。

「惜しいぞ、お前を殺すには惜しい、なぁザイオン」

 クジラは自らの魔力を開放し魔法を一つ発動させる、手を銃のようにし相手に向ける。

「フライシュッツ」

 瞬間、指を中心に半径5m程の光の球体が彼等でも反応できない速さで飛んでいく。

 全身が焼けたように爛れ堕ちた肉を見ながらザイオンは目の前の化け物がなんなのか推測する。

 『惜しいぞ』

 ゆっくりと近づいてくることから手加減されたであろうと考える。

 彼の相方のギリアムも自分と同じくらい瀕死の状態である。

「リ・ダクション」

 苦しかった息が戻り、地面に触れるだけで痛みのあった部分が全て再生する。

 その強さに畏怖した。

「フライシュッツ」

 クジラはまた二人を瀕死にし。

「リ・ダクション」

 そしてまた直す。

 これをあと3度行ったあと服を裂いて胸の部分を見せる。

 そこには勇者である紋様があり。

「俺は東の勇者であり、東の魔王の友人でもある」

 意味が分からなかった、理解もできなかった。

 魔王と勇者が友人だと。

 だがこれほどの強さを持つ人間ならありえるのかと、噂では東の魔王は変人だと彼は聞いたことがあったから。

「東に迎え、今あそこはお前等みたいなのを受け入れている」

「貴様になんの得がある」

「得?ないが」

 そんなもののタメに動いてないと付け足して。

「あの勇者を殺すのはもったいないし、お前達を殺すのももったいない、ただそう思っただけだ」

 ザイオンは使えた魔王の仇を果たせぬならと考えたところでギリアムが口を開く。

「俺は貴方に従う、東の魔王の下で働けるならそれでもいいだろう、こいつもそうさせる」

「ギリアム!」

「黙れザイオン、俺達じゃ此奴に勝てねえし東に行けばいいってならまだチャンスはある」

「では盟約だ、一切の食事も休憩も盗みも殺しもせず、人間社会に一切の害を加えることなく全速力で東の魔王城へ迎え」

 ギリアムは手を挙げながら。

「盟約に従う」

 契りを交わし、それをみたザイオンも悔しさを噛みしめながらも。

「盟約に従う」

 二人の魂に縛りが発生し、もし盟約に従わなかった場合はすぐに死ぬ。

「あと最後に俺に何か魔法を打ってくれ」

「なぜ?」

「これじゃ戦ったように見えないだろ?」


「「セロ」」

 魔族が使う一般的な魔力破を全力で放ち逃げるように2人は駆けだした。

 

「あの2匹どっちも全力でセロを打ちやがったな、・・・防いじまった」

 二人が逃げ去った後もまったく傷や怪我も汚れもない姿でクジラは立っている。

 仕方ないと言いながらカバンから服を取り出し着替える。

 裂いた服はそのままカバンに詰めて西の勇者一行のところへ走って戻る。

「あ」

 エフィルはクジラが戻ってきたことに気づくと即座に走り出し目の前で止まり頭を下げる。

「ありがとうございました!」

 勇者でありながら普通の冒険者に救われたと彼女は思っている。

「アンタ何者」

 そう聞いたのはアンジュだった。

 彼女は優れた魔法使いと呼ばれているだけあり、あの状況下でもクジラの魔力操作の技術と魔力の質を見てその異質さを感じていた。

「アンジュ!」

 そしてそういった思惑があってそういう質問をしてきているであろうことはクジラも分かっていた。

 だからこそ自分をどうやって伝えるか、なんと説明するかをわざと悩むようなそぶりを見せながら。

「世界最強」

「「「・・・」」」

「すごいですね!」

 その言葉を素直に受け取ったのはエフィルの1人だけでフリーデ、ノエル、アンジュは呆れた顔をしていた。

 メルフィーロはまだ目を覚ましておらず眠っている、それをフリーデが膝枕をし、ノエルがその後ろで周囲の警戒、エフィルはクジラの目の前で目を輝かせ、アンジュはその後ろで疑いの眼差しを向けている。

 この場で一番強いのはクジラである以上すぐに証明は出来ない世界最強。

 だが最初の立ち回り、悪魔2人を簡単に投げ飛ばしここから距離を取り、高威力の魔法がポンポン撃って無傷で戻ってきたことから馬鹿げてると否定できない、さっきの戦闘で説得力としては十分だ。

「それと1つ確認したいんだけど」

 カバンの中から1枚の紙を取り出す。

「どうする?報酬次第では世界最強(仮)が護衛するけど」

 それは偽装工作のためにギルドに出した割の合わなすぎる依頼だった、だがもしこの強さの人間が護衛してくれるのであれば自分たちの目的は果たせる。

 だが1人で決めるわけにはいかない、ではみんなで一度相談しみようと、アンジュは一瞬でここまで思考を巡らせ口を開いた。

「お願いします!」「いっ」いったん相談しようと言いかけた。

 だがその言葉を出す前に約0.2秒でエフィルが即答したのだった。

「報酬はいい値で構いません、私達の全財産で足りなければ私の体を好きにしてもいいです」

 いきなり何を言い出すんだこの子はと目を真ん丸にして驚いている訳にもいかず、すぐに口を塞ごうとしたがその手を掴まれ。

「その代わり私の師匠になってください!」

 突拍子もない申し出に、まずクジラはお子ちゃま体系の女の子を見てどこら辺に自信があるのだろうこの子は、と絶対に女性に悟られてはいけないことを考えていた。

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世界のヒビに 安心院りつ @Azimuritu

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