6.嘘吐き
第18話
赤瀬に届くよう声を張って聞き返す。
「電車が事故で止まった?」
赤瀬が勢いよくこちらへ振り返った。
空いている方の手で赤瀬を招く。
スマホをハンズフリーにする。隣へ赤瀬が収まるのと同時に、お兄ちゃんは答えた。
「ああ! ついさっき! もう駅ごった返してて! 復旧したらすぐ乗れるように駅で待ってるけどさ! ちょっとすぐには帰れねえわ!」
確かに外からかけてるらしく、お兄ちゃんの声を掻き消さん勢いの喧騒が聞こえて来る。
電車が止まったのは今し方なんだろう。状況が周知されていないから平時通りに利用客が押し寄せ、
元々距離のある町で暮らしてるんだ。下手をすると帰って来るのは日付が変わる頃になる。つまりその間、
胃の底が冷たくなって、脈が速くなる。それを宥めようと、ゆっくり言葉を発する。
「分かった。お兄ちゃん、聞いて欲しい事があるから、もう少し人が少ない場所に移動して貰っていい?」
お兄ちゃんはすぐに歩き出したようで喧騒が遠のいた。
「この辺でいいか?」
「大丈夫。ありがとう」
「で、どうした?」
「
「えっ?」
お兄ちゃんのぽかんとした声に不安が増す。
テンションが上がってるのはホラー映画好きだからなんて言っていたが、きっと矢花さんの嘘だ。私が水間家から追い出す口実にそれとなく町の観光を提案した際、私について根掘り葉掘り
真っ暗な水間家の中、一人玄関ドアの隙間から廊下を凝視し私を待っていた矢花さんの姿が、勝手に脳裏に浮かび上がった。
「あの、お兄ちゃん。矢花さんに私について、どんな風に話した?」
掻き消そうと咄嗟に喋る。
お兄ちゃんは困惑したらしく、数秒の沈黙が流れた。
「どんなって……。妹だよ。別に普通」
「写真を見せた事無い?」
「あるよ? スマホで撮ったやつ。でも変なのじゃねえよ。お前の高校の入学式で一緒に撮った写真とか」
「その写真って矢花さんに送ったりした?」
「送ってない。いや、普通しねえだろ」
なら彼女はどうやって、数センチのドアの隙間からでも確信出来る程私の顔を覚えた。
お兄ちゃんは引っ越しの際、生活に必要な最低限の荷物だけ持って出ている。私物の殆どを置きっ放しにしている状態で、アルバムを優先して持っていたとは考え難い。まさか私の写真だけ抜き取って持って行くなんて気持ち悪い事もしてないだろう。そもそもそれは不可能に近い。家族写真で私が被写体になっているものは殆ど無いし、まして最近のものとなると、高校の入学式以来無いと思う。
なら矢花さんは、勝手にお兄ちゃんのスマホを使って私の写真を自身のスマホに送信し、覚えるまで眺めたのか。
普通じゃない。でも可能だし、面識の無い私の顔を一方的に覚える方法もこれしか無い。
もう二度と顔を合わせたくない。お兄ちゃんが連れ帰るまで絶対に水間家にも戻らない。
恐怖か緊張か、微かに痛みを覚える程喉が渇いていた。誤魔化そうと唾を飲み込む。
その一瞬の沈黙に差し込むように、お兄ちゃんは言った。
「さっき
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