第6話
「そうですか」
上半身をじっと見られていると分かって寒気がする。
「昔から水泳の強豪で有名だよね。公立校だから設備が整ってる訳じゃないのに、泳ぎが上手い子多いって」
針で血が出ない程度にチクチク突かれているような、痒みと痛みの間のような不快感が、肌の表面を這って広がって行く。
「水害が多い地域だった頃の名残で、水泳の授業に力を入れているそうです」
「
「あの」
「ん?」
またあの虫籠と昆虫を思い出した。
「私に何か用ですか」
「今質問してるよ?」
「そんなに気になります?」
「そりゃあ彼氏の妹となれば色々気になるでしょ」
「兄からどんな風に私について聞いてますか」
「可愛い妹って」
「もう少し具体的には」
「落ち着いてて、頭がよくて、可愛い。人見知りでは全く無いんだけれど、一人を好むタイプ」
「玄関でのドッキリを仕掛けようと思ったきっかけのエピソードは?」
「さっきは本当にごめんね」
「謝罪ならさっき頂きましたから」
「ついはしゃいじゃって。後で
「本当にあのドッキリの動機になる程、兄から私について聞いてますか? 兄と私って性格がかなり離れてるので、一緒に遊ぶ事って多くありませんよ。それこそ、本当に小さい頃とかぐらいで」
「
「はい?」
「
「……何なんですか本当に」
「
「何で?」
「そんなに美人で頭もいいなら友達も多いんじゃない? 彼氏は? いないの? いるでしょ? 同じクラス? 他学年? 何で避けるの私の事。まだ会ったばっかりなのに嫌いになった?」
立ち上がろうと椅子を引いた。
銃声のような音が鳴り渡り思わず固まる。
こちらへ身を乗り出している
前へ傾けた上体を引き伸ばすように突き出された首の先に、玄関に引き
「さっき私に嘘
女は笑みを絶やさず言った。
もう腹をテーブルに付けるぐらい上体を倒している。それを支えようと脇へ伸びる両腕は肘で鋭角を描き、肩も角張り持ち上がっていた。その姿は、正面からバッタなりカマドウマなり、足の長い虫を見た時のような歪さを覚える。その先端には
「さっき私に嘘
もう駄目だこいつ。
「……あんた何なのホントに」
「さっき言ったよね? 『急な来客なのでもてなす用意もしていませんし』って。私一ヵ月前には
「私に何の用」
「何か私に隠してるの? 初対面なのに?」
正気じゃない。
心臓が痛いぐらい脈打ってる。
でも動けない。これ以上関わってはいけないと分かるのに、
女は笑みを絶やさない。あの、虫籠と子供を思い出すようなギラついた目を吊り上げたまま、ふと片腕を宙へ上げた。
「私に知られるとまずい事でもあるの?」
重たい金属の音が鳴る。
女から笑みが消えた。宙を掻くような形で片腕も止まる。
消えた金属音と入れ替わるように、足音が鳴った。落ち着きの無い大股を思わせる歩幅と殴り付けるような力強さで床を鳴らし直進して来る。
玄関から誰か入って来た。
やっと気付いて、もうリビングに入って来た何者かへ振り返る。
目が合った。
その者は緊張で強張っていた顔を怒りに歪ませ、私の隣で立ち止まるなり、テーブルの向こうへ真っ直ぐ向かい合って口を開く。
「お前誰やねん」
怒りで動きが大振りになっている自身に踊らされるロブヘアにも制服のスカートにも目もくれず、クラスメートの
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