『H-IIBの祈り・墜落衛星』その④

「サイズは、一番小さいので良さそうかな。音夢ちゃん、だったよね。身長覚えていますか」

「確か、140後半だったはずです」

 測ったのは大分前だけど、まあそんなに変わらないだろう。

 今更成長期が追いついてくるとは思えなかった。牛乳が嫌いだったからだろうか。

「音夢は変わらないね、小学生から伸びてなさそう」

「流石にちょっとは伸びたさ」

 目測だけど、珠火は160はありそう。優午さんが私達の間くらいか。

 すっかり大きくなった。

「これとこれと、あとは変わり種で着ぐるみパジャマとかも……」

「いいねいいね。ちょうど新しいパジャマ欲しくて。出来ればお揃いのも」

 なにやら相談して意見がまとまったようで、広めの試着室のハンガーに選んだ服を引っ掛けていく。

「せっかくだし写真も撮りましょうか」

 優午さんが笑顔で歩み寄る。

 どこからか持ち出したのか、インスタントカメラが二、三回瞬いた。ファインダーから顔を上げて、プリントした写真を見せてくれた。

「ほら氷室ーーだと紛らわしいな。珠火ちゃん、どーぞ」

 二人いるもんね。

 それでは拝見、と手元を覗き込む。

 さっと見ていって、違和感に気付いた。

「なんか、脚とか首とかの、アップ多くないですか?」

 こなれているだけあって綺麗に写っているのだが。

 勿論全身映したのがメインだけれどなんか、肝心の服が申し訳程度にしか写ってないのもある。

「個人で楽しむ用で焼き増しするだけだからさ、ねっ」

「音夢がかわいいから、ついつい取りたくなっちゃうんだろうね。うん」

 珠火にも目配せして、適当に誤魔化された。

 まあ別にいいのだけれど。外に持ち出さないなら。

 場の空気に流されて、判断が鈍っている気もする。

 次に着てみたのはさっきの、ショーウィンドーに飾ってあったネグリジェ。

 いざ着てみると存外に派手で、さっきのワンピースよりも露出が多く自然、内股気味になってしまう。

 まだ少し、恥ずかしかった。

「肌はけっこう出ますけど、可愛いですね。柔らかいし」

 どちらかと言うとサイズが微妙に合っていないきらいもあるが。

 フリルやリボンが多くて気を使いそうだけれど、シルクということでなにより軽やかで肌触りもよく寝心地が良さそう。

 いわゆるナイトキャップという感じの先にぽんぽんが付いた帽子がセットになっていて、被ってみると私の髪をふんわり掴んで収まりがいい。

 今日の夜の事を考えると、ちょっとワクワクしてきた。

「かわいい〜。音夢は何でも似合うね。羨ましい」

 褒められるのはやっぱり気持ちいい。ポーズを取ってみようと座り込む。

 女の子座りして胸を両手で抑えて、それで顔はもうちょい上目遣い。

 珠火の要望に応えながらまたしても撮影会が始まった。

「さっきの話だけど、実際音夢ちゃんはウチの商品がよく似合うと思うんだ。珠火ちゃんも可愛いけど」

「珠火のパジャマも、こういうのなんですか?」

 昔は、キャラクターが印刷された光るやつとか着てたのだが。

「そうだね、前に買ってくれたよ。……ちなみにこれなら珠火ちゃんのサイズもあるけど」

 意図を察したようで、優午さんがサイズ違いを持ってきてくれた。

 仕返しとばかりに、撮影に夢中の珠火の服に手をかける。

 脱がす方は案外簡単で、ひん剥かれた珠火は慌てて胸を隠した。

「えっちょっと何」

「これさ、着ない、かな」

 珠火にネグリジェを渡す。どうなるかなと思ったけど、珠火はにやりと笑って服を脱いで、それを着てくれた。

「おそろだね、珠火」

「私っ、正直興奮してきた……」

 笑顔が怖い。

 二人で鏡合わせで手を繋いでみたり、バックハグしてみたりと優午さんのオーダーに合わせて色々写真を取る。

 スタイルのいい珠火が着ると同じデザインでも違った印象で、言ってしまえば結構セクシーである。

 こぼれたり、見えてしまわないかと内心ドキドキしてしまう。

「……これ欲しい、すごく欲しい。優午。これ買う、全部買う」

 そんな私はさておき、珠火も本人の宣言通り興奮しっぱなしだ。

「流石に私が出すよ」

 一応、珠火の趣味全開とはいえ私のものな訳だし。

「いいって、引っ越し蕎麦代わり」

「サービスしとくよ」

 ありがとうございます、と私も一応一言入れる。

「珠火ちゃん、次はこれなんてどうだろうか。音夢ちゃんに」

 なんだろうと覗き込もうとすると、首筋になにか温かい物が触れる。

 珠火の指だと認識したのは、肩紐が外されてからだった。

 あっという間に下着姿になって、着せられたのは恐竜の着ぐるみパジャマ。

 恐竜とはいうがゴツい感じではなく極端に抽象化されたアロサウルスって感じだ。

 ティラノかもしれないが指が多いし角っぽいのが二本あるのでアロだと思う。

 尻尾は、服の中で袖と紐で繋がっていて、腕に連動して動く。

 中はもふもふした生地になっていて、素肌に触るとなかなか気持ちがいい。

「が、がおぉ〜? 食べちゃうぞ」

 昔見た図鑑を思い出しながら、斧のようにアロの顎を振り下ろす。

 確か顎の力が弱いとかでこうするらしい。珠火たちは「きゃーっ」と叫んでいるが、なんか違うと思う。

「お姉に食べられちゃうよ」

 そういいつつ珠火は簡単に受け止めている。

 アロサウルスだぞ。もっと怖がれ。

 遠慮がちに爪で引っ掻くが、ファンシー補正のせいで尖って無くて、どっちかというと気持ちよさそうだ。

 後ろで満足そうに腕組をしていた優午さんは、時折目ざとくシャッターを切っていた。

「さて珠火ちゃん、お楽しみはこれからだぁ!」

 取り出したるは、件のすけすけネグリジェ。これはもう下着と主張したほうがいいのではないだろうか。

 せっかくだからと下着も、なんか専用らしい面積の少ないものに着替えさせられた。

「流石にこれはっ、ほぼ裸っていうか……珠火ぁっ」

 思わず屈んで、身体を腕で隠してしまう。

 かわいいけど、かわいいけどこれならほんとに裸のほうがいっそマシかもしれない。

「珠火のえっち」

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