14話 失くし物、紡ぐもの
「美緒まで連れて、何がしたいんだい・・・。あたしはね、この子に会うわけにはいかないんだ」
「まだ事故の件を引きずってるの・・・?! 私はもう乗り越えて今、家族で暮らしてるんだから、お母さんもいつまでも気にしてちゃだめじゃない・・・!」
「そういうわけにはいかないよ・・・。あの子はね、あたしが殺したんだ! これは揺るがないよ、美緒がなんて言おうが、あたしはそう思ってるそれだけさ。だからあんたたちには会わないようにしてきた。会う資格がないと思ったからね」
言い合いが白熱する美緒と加賀は互いの意見を譲ろうとしない。こうしてみれば2人の顔にも共通点が見え隠れする。やはり家族なのだと再認識させられた。
だが、確認するべきことはまだある。
僕は改めて加賀に問い詰めた。
「加賀さん。ここからは僕の推論です。間違ってるかもしれないですし、合ってるかもしれませんし。だから余談程度に聞いてください」
昨日美緒からある程度ほしい情報を貰った。そのいくつかの情報をから考えて、僕は1つの結論に達したのだ。
「まず、ニーナちゃん。あの子は春香さんの代わりなんですよね? 突然無くしてしまった宝物を、取り戻すかのようにエンティアを契約した。美緒さんには罪悪感がありつつも、自分の原罪に押しつぶされないようにと」
加賀は何も言わない、それでも僕は言葉をつづけた。
「最初はすぐに契約をキャンセルするつもりだったけど、ニーナちゃんと過ごす時間が増えていく中、ニーナちゃんを返却することは、また春香さんを殺してしまうことに繋がってしまうんじゃないかと、途中でそんな不安に押しつぶされそうになっていたんじゃないですか?」
「・・・」
「そして、ニーナちゃんが製造された日付、5年前の4月25日、明日です。そして春香さんの誕生日も4月25日。当時亡くなったとき、春香さんは12歳でした。そしてニーナちゃんの年齢設定は9歳」
僕はいったん言葉を区切り、結論を加賀に突き付けた。
「ニーナちゃんが実際の人間の年齢なら13歳です。中学生の年です。加賀さん、あなたは13歳を迎えられなかった春香さんに対して、ニーナちゃんの誕生日会を明日決行することで代わりに祝ってあげようとしてたんじゃないですか・・・?」
加賀はそれ以降何かを言うこともなく俯いていた。心配して美緒が加賀の隣に行って背中をさするようなしぐさをしてあげる。
「なんで1人で抱え込んでいたの・・・。言ってくれれば私だってニーナちゃんのために色々してあげられたのに」
「・・・何言ってるんだい。美緒には美緒の家庭があるんだ。こんな老いぼれがのこのこそんな輪の中にはいっていくわけにはいかないよ・・・。葵さん、あんたの言うとおりだ、本当新入社員とは思えないね全く。でも、無理なんだろ? 今日、ニーナは連れていかれる。誕生日を祝ってあげることもできずに、ニーナはあたしから離れていく」
こればかりは僕にはどうしようもなかった。本音を割って話したい、そうすればニーナとの別れもきちんとできる。そう思っていたが、昨日この結論に辿り着いた時、目的が達成するかしないかで加賀の心情は大きく変化する。それに春香さんの命日は今日だ。誕生日の前日に彼女はなくなってしまった。美緒の話によると、春香さんは中学生に上がることを心待ちにしていたそうだ。そして中学生に無事上がり、楽しんでいたその日々の中唐突に命を奪われた。誕生日を目前にして。
「それは・・・申し訳ありません、期日に、関しては・・・」
「問題ありません、すでに交渉はこちらで済んでいますので」
瞬間、僕の言葉を遮るようにして水月はそう発言した。打ち合わせにない状況に僕は思わず水月のほうに目を向けた。
水月は廊下から足を延ばして居間に入ってくる。続けて言葉をつないでいく。
「明日の17時までなら回収を延長してもいいとのことですので、誕生日会は予定通り行ってもらって構いません。もっとも、明日は営業日ではないので私たちは休日出勤を余儀なくされますけど」
「水月先輩・・・? それ、本当ですか?!」
「・・・はい。ですので、葵君もニーナさんの誕生日。いえ、春香さんとニーナの13歳のお誕生日を祝ってあげてください」
信じられない状況に僕以上に目を見開いて驚く加賀がそこにはいた。目からは大粒の涙があふれて嗚咽を流しながらこういう。
「いいのかい・・・? こんな老いぼれの頼み事なんて聞いて・・・あんたらは大丈夫なのかい・・・? 無理してるんじゃないのかい」
「言ったはずです。交渉は済んでますので」
そこで加賀は完全に泣き崩れてしまった。それに共鳴するかのように美緒も泣き始めてしまい、それに驚いたニーナは廊下から顔を心配そうに顔をのぞかせている。水月はそれに気づいて小声で彼女にこう告げた。
「明日はお誕生日会でケーキを食べられるみたいですよ。ニーナが好きなショートケーキも」
「え?! 本当!! おばあちゃん本当!?」
「に、ニーナ。待ってなさいって言ってたじゃないか・・・!」
「この子が、ニーナ・・・」
居間に走って加賀の元に抱き着くニーナ。その勢いで床にしりもちをつく加賀を尻目に美緒は手で口を覆い、蒼白の表情を浮かべる。
「・・・? この人だれ?」
「ああ、ニーナのお母さんだよ」
「ニーナにお母さんがいたの? えっと、初めまして? ニーナです」
「・・・ええ。ニーナね・・・。本当に、あの子にそっくりだわ。春香が帰ってきたみたい・・・」
「春香じゃなくてニーナだよ」
「うんわかってる。一度あなたを抱かせてちょうだい」
「いいよー」
ニーナの相変わらずの聞き分けの良さは美緒に対しても健在のようで、美緒の胸の中にニーナは飛び込んだ。
「においまで、あの子と一緒ね・・・」
「春香が好きだったシャンプーを今使ってるからね」
「さすがお母さん、孫の溺愛ぶりは変わってないのね」
「ちょっと・・・お母さん・・・? 苦しいよ・・・」
「もう少し、こうさせてちょうだい。お母さんの最期のお願いだから」
僕と水月は邪魔しては悪いと思って廊下に出る。こうしてみると3人は本当に顔が似ている。親子なんだとわかるほどに。そして3人の間にどれだけ長い時間があろうと関係ない、いつかはこうして結ばれる。たどりつくのだと。永遠に近いような時間でも、決して。
「本当の家族みたいですね」
水月がそう笑みを浮かべながら言うが、僕はこう告げる。
「家族ですよ。無くしてもいても、失ってしまっても。当人たちが家族であろうとする限り絆はなくなったりなんてしませんから」
「意外と、葵君はロマンチストなんですね」
「意外とは余計じゃないですか?」
2人で話していると加賀が腰を上げてこちらに近づいてくるのが見えた。なんだろうと思ってみていると、どうやら水月にも用があるみたいで「2人とも」という言葉からこう話す。
「明日の誕生日会、来ておくれ」
「私もですか? いえ、私は17時になったらこちらから出向きますので」
「ええ!? みつきちゃんこないの?!」
ニーナが美緒に抱かれていた腕を振りほどいてこちらに駆けてくる。困ったような顔をする水月が僕に視線を向けてきたが・・・。
「諦めてください」
と返してあげた。
「わかりました・・・」
喜びはしゃぐニーナはジャンプしてその心情を体全体で表現する。水月も嫌な顔などはせず、むしろニーナの様子に安堵していた感じだった。
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