インターハイ開幕15

 俺は市村からボールを奪う、スティールをした。


 三ツ谷高校は、誰もがディフェンスに戻れていない状態。


 俺は、そのまま、走り抜け、ボールをリングに置いてくるレインアップシュートを放つ。


 勢い余って、着地した時にバランスを崩して、転びそうになったが、なんとか耐えた。


 そのため、ボールがどうなったのか見てなかった。でも、慧が拳を突き上げて、俺に訴えていて、今のレインアップシュートは、入ったのだと理解した。


「スティール、うまいな」


 市村はひとり呟く。自分のミスもあってか、ため息をついた。


 今日は調子が悪いようだ。


 三ツ谷高校と対戦する前に、三ツ谷高校の試合を何試合か見て、分析していたときも、今の試合のように、市村はミスを多くするような選手ではない。


 むしろ、ミスがあまりにもなさすぎて、どうやって、対策するか悩ませていた。


 この試合も当然、ミスは少ないだろうと予測を立て、試合展開を確認していた。


 ところが、市村に何があったのか、ミスが多くなっている。それもイージーミス。


 市村も自信を持ってプレーをしているはずだ。だが、イージーミスが多くて気を落としている。


「気にするな。そういうときもある。バスケはチーム戦だ。お前の分は必ずカバーする。だから、もっとチームを信じろ」


 吉村は市村の肩を叩き、はっきりとした口調で言った。吉村の言葉は力強かった。


 市村も吉村の言葉に励まされたのだろう。軽く笑みを浮かべた。


「ありがとうな」


 市村は吉村の背中をポンッと叩いた。


 三ツ谷高校のオフェンス。


 吉村の言葉が効いたのか、ここから、市村は別人のようにプレーが変わっていく。


 俺が市村についていけず、スーッと脇の下をくぐり抜けていく。本当に一瞬。


 どんな動きをするか読めず、俺は呆然とした。


 すぐに、灯がフォローに入り、市村を止めようとしていた。


 だが、市村は空中でボールを左手から右手に持ち替え、少し体を縮めて、灯という壁を壊した。


 そして、市村はシュートまで持ち込んだ。


 ダブルクラッチだ。


「やられた」


 灯は思わず口に出てしまった。すごく悔しい。


「悪い、ディフェンス甘かった」


 俺は灯に謝った。


「気にするな、何のために仲間がいると思ってるんだよ」


 灯は、ニッと笑う。


 俺は灯につられて、笑みが溢れた。


 そう、これがバスケ。仲間に励まされて頑張れる。



 俺はフーッと息を長く吐いて、気持ちを切り替える。


 城伯高校のオフェンス。


 俺は市村に1対1を仕掛けることにした。市村を抜くためには。


 市村は、俺が少し動作をするだけでも、足が僅かに動いてしまう。その僅かに動いた時がチャンス。


 ズレが生じて、ボールを動かしやすくなる。


 俺はパスをする素振りを見せる。


 狙い通り。市村の足が僅かに動く。


 ゴール下まで、ドリブルで切り込む。


 これがドライブ。


 市村は、しっかりついてくる。


 シュートはできそうにもないか。


 俺は智樹にパスを出そうとした、その時だった。


 パスすることを読んでいた。


 吉村がボールをカットした。


「しまった! スティール!」


 俺は失敗して、舌を出した。


 市村が既にゴール下まで走っている。


 吉村はロングパスを出して、市村へとパス。


 市村はそのまま、ジャンプシュートを決めた。


「ナイススティール!」


 市村は吉村に声をかけた。

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