インターハイ開幕7

 俺は唖然としている慧を見て、複雑な気持ちになった。


「なんだよ、慧と戦っているような雰囲気だな」


 ボソッと呟く俺に、慧は笑顔だった。


「これが本来の樹だろ? 俺は信じてたぜ。必ず、本来の力を発揮するって」


 慧に言われて、俺は目を丸くした。


「大袈裟な……たまたまだよ」


 俺の言葉を聞いていたか、聞こえていなかったか。慧はディフェンスに切り替えるために走り出す。


 三ツ谷高校のオフェンス。


 市村は、しっかりとマークにつかれる前にパスを出す。


 野崎は、市村からボールを受け取ると、一瞬だけ動きを止め、全体を確認する。


「ふー」


 野崎は息を長く吐くと、ドリブルで進んでいく。ちょうど、ペナントエリアまできた。


 ペナントエリアは、フリースローラインのある台形の中のこと。ペナントエリアから、外に出して、ペナントエリアに入れ、外に出すという繰り返しで、シュートを狙っていく。


 これが今の日本のバスケのスタイルだ。


 そのプレーを参考に、高校でも取り入れるようになってきた。


 そのため、ペナントエリアでのシュートと、スリーポイントからのシュートを打つ回数が増えているのも特徴だ。


 野崎はペナントエリアに来たのは、良いものの、ここから先が何もできない。


 それもそのはず。灯が動きを封じている。


「……やるなぁ」


 野崎はドリブルをしたまま、何もできずにいた。


 灯が野崎の動きに合わせて、壁を作る。


 野崎は一瞬の動きを見た。


 吉村のところが、わずかだが空いている。そこを狙って、灯の股の間を通して、吉村にパスを出す。


 吉村はボールをもらうと、すぐに市村に出す。


 スリーポイントが打てる位置にいる。


 スリーポイントはさせない。


 俺は、市村について、スリーポイントを打たせないように壁を作る。


 市村は、それでも、ドリブルを1回して一歩下がり、スリーポイントを打つ。


 俺はブロックしようと手を伸ばすが、スリーポイントとなると、なかなか難しい。


 市村のスリーポイントは見事に決まった。


「フッ」


 市村に思わず笑みがこぼれた。


 まるで、散々やってくれたから、お返しだよと言わんばかりだ。


 俺はニヤリと笑った。


 なんだか面白い。こんなに楽しいと思った試合はあったかというくらい。


 俺は仲間がポジションにつくまでドリブルをしながら待った。


 智樹が市村にスクリーンをかけに行く。


 智樹が壁になり、市村の動きを封じ、スペースを作ってくれた。そのため、俺はドライブ。ゴールまで切り込み、そのまま、リングにボールを置いてきた。


「レインアップ!」


 市村の声がする。


 智樹に封じられた市村は、ディフェンスにつくには時間がかかる。


 だから、市村の分を立川がフォローし、俺を止めに入る。


 俺は空中のまま、右手に持っていたボールを左手に持ち替えて、シュートする。


「ダブルクラッチか!」


 躱された立川は呆然とゴールを見た。


 ダブルクラッチは成功。


 完全に城伯高校に流れが来ている。

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