インターハイ開幕6

 2分間のインターバルで、俺たちはもう一度、動きを確認する。


「もう前からディフェンスしていこう。向こうはスピードがあるから、前からプレッシャーをかける」


 慧がチームに声をかけている。


「あと、もっと、樹にボールを渡そう。今日、樹が当たってる。だから、樹に渡して、樹は、どんどん、スリーポイント打って」


 貴が強めの口調で話す。


「はい」


 智樹が大きな声で返事をする。


 三ツ谷高校の円陣を組んでいる姿が見える。


「よし! 行くぞ!」


 キャプテンの市村が大きな声を出すと、三ツ谷高校のメンバーも大きな声で返す。


「おぉぉぉぉ!!!!!」


 インターバルが終了。


 これから第2クォーターが始まる。


 2クォーターのスタートは、1クオーターのスターターと同じだ。


 城伯高校は俺、慧、貴、智樹、灯。


 三ツ谷高校は市村、立川、吉村、野崎、ジェームズ。


 2クォーターは、城伯高校のスローインから始まる。


 慧がボールをコートに入れる。


 慧は智樹にボールを渡すと、走ってコートに入っていく。ゴール下に待機し、チャンスがあれば、パスをもらいに行けるように準備する。


 智樹は軽くドリブルをして、俺にパスする。スリーポイントを打てるチャンスはある。ただ、ここは。


 あまり、やりすぎても読まれる可能性がある。


 俺は貴にパスを出す。


 貴がドリブルで、ゴール下へと切り込む。


 ジェームズは貴を止めようと、貴の動きに合わせて、同じように動く。


 その隙に、俺は左側のコーナーに走る。


 「貴!」


 俺は貴の名前を呼ぶと、貴はまず、慧に視線を向けた。


 シュートと見せかけ、ジャンプすると、慧を見たまま、俺へとパスを出す。


 貴のノールックパスだ。


 俺はボールが来るのを予測して、パスをもらいに行った。


 ドリブルで一歩下がって、スリーポイントラインを確認すると、迷わずにシュートする。


 シュッ


 ボールはネットを揺らして、リングの中へ吸い込まれていく。


「あいつ!」


 市村はボールを持っていた貴に気を取られ、俺がノーマークになっていたことに気づけなかったようだ。


 思わず、市村は舌打ちをした。


「おぉー! 今日、マジで当たってるなぁ」


 美香がベンチから、シュートの記録をしながら、興奮した様子で口にする。


 その様子が俺にも伝わってくる。


 俺は美香に親指を立てて、笑顔を見せた。


「あのスリーポイントはまぐれじゃないみたいだな」


 吉村が市村に話しかけている。


「ちょっと油断してたかもしれないな」


 市村が深いため息をつく。


 三ツ谷高校のオフェンス。


 市村がボールを持つ。少し、慎重になっているかもしれない。


 俺は市村につき、パス、ドリブルで抜けられないようにする。


「しつこいな……」


 市村から出た言葉。


「褒め言葉か?」


 俺は笑みが溢れた。思わず出てしまった言葉だろうけど、褒め言葉として受け取っておくことにしよう。


 市村は、ようやく吉村にパスを出す。


 ただ、そのパスはうまく行かなかった。


 ディフェンスが良かったともいえる。パスミスで吉村はボールを受け取ることができない。


 そこを狙っていた智樹は、ボールを素早くとって、俺に渡す。


 ここは、スリーポイントではなくて、レインアップで行ける。さらにノーマーク。


 俺はゆっくりと落ち着いて、1,2,3のリズムで、ジャンプし、リングにそっとボールを置いてくる。


 ボールは綺麗にリングの中へ。


「よっしゃー」


 俺は人差し指と親指で丸を作り、OKとガッツポーズをする。


「おぉ、今日は樹の日だな」


 慧は信じられない様子だった。一緒のチームの仲間なのに、俺を見て呆然としている。

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