インターハイ開幕4

 俺はスリーポイントシュートを放つ。


 何もかもがスローモーションに見えた。


 ボールの軌道も人の動きも。


 まるで、時間が止まったかのようだ。


 ほんの1秒、2秒のことなのに、1分くらい経った感覚だった。


 ボールがリングに入るまでの時間。


 これほどまでに長く感じたことはなかった。


 だから、俺はスリーポイントが成功したことに気が付かなかった。


 ものすごい歓声で、ようやくスリーポイントが入ったと認識した。


「ナイシュー!」


 美香の声が聞こえたかと思うと、慧や貴の声、観客席からの声が飛び交っていた。


「どうしたんですか?」


 風斗が声をかけてきた。


 俺はこの感覚を説明することができず、風斗になんでもないと言って、笑顔を見せた。


「今のはまぐれだろう。データとしてはスリーポイントシュートが得意ではなかったはず」


 吉村が市村の肩を叩いて、小さな声で呟いている。でも、その声は、はっきりと俺に聞こえていた。


 確かにスリーポイントは、そこまで得意じゃないけれど、完全に舐められている気がする。


 まさか、三ツ谷高校もインターハイで城伯高校と戦うことになるとは思っていなかったはずだ。


 弱小チームで、無名の高校だったのだから。


 ピーッ


 笛がなった。


 審判は三ツ谷高校の選手交代を合図した。


 吉村がアウト、黒山がコートにインした。


 黒山が入ったことで、俺には黒山がついた。


 市村は、どうやらポジションを変更し、シューティングガードとしてコートに立つようだ。


 黒山はジェームズにパスをする。


「いけっ!」


 黒山は、ジェームズに1対1の勝負をしろと、目で合図した。


 ジェームズは頷くと、1対1を仕掛け、レインアップシュートをする。


 1、2、3のリズムでジャンプし、ボールをリングに置いてくるようにシュートを打とうとした瞬間。


 貴がボールを叩いた。


 ジェームズのシュートをブロックした。


 そのボールを取ったのは、風斗だ。


 風斗は手で、すぐ戻れと合図する。


 俺は風斗をマークしている野崎の壁になり、風斗をゴール下まで行かせようとした。


 野崎の壁になるということは、スクリーンをかけにいくこと。


 俺がスクリーンをかけにいき、風斗がプレーしやすいようにする。


 そして、俺は野崎の壁を利用し、方向転換して、右のコーナーへと移動する。


 風斗はそこを見逃さなかった。一度、ゴール下までドリブルで切り込む、ドライブをしたものの、シュートはしなかった。


 シュートをすると見せかけて、俺へとパスをする。


 野崎にスクリーンをかけにいった後、俺が方向転換をし、空いたスペースでパスを受けにいった。


 これをピックアンドロールという。


 俺はノーマークになっていて、迷わずスリーポイントを打つ。


 コーナーからのシュートは難しいが、これも、外す気がしなかった。


 ボールは綺麗な弧を描き、シュッとリングの中へ入っていった。


「よっしゃ!」


 俺はガッツポーズをした。


 2本連続のスリーポイントシュート。


 先ほどとは、また違う感覚だ。


 貴は市村がドリブルしているところを狙い、ボールを奪った。


「ナイス、スティール!」


 貴は俺にボールを渡す。


 行ける!


 俺は再びスリーポイントを打った。

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