久しぶりのオフ4

 美香とのデート当日。


 すっかり忘れていた俺は、目が覚めて慌てて跳び起きた。


「しまった! 約束!」


 朝10時に待ち合わせしていたのに、もう9時半じゃねぇか!


 美香のことだから絶対に怒るだろう。


 大慌てで着替えて、顔を洗って外へ飛び出そうとしたとき、母さんに呼び止められた。


「ちょっと、樹、朝ごはん、ちゃんと食べなさい!」


 俺は食パンを頬張りながら、外へと飛び出す。


「いってきます!」


「ったく、美香ちゃんがいないと不安だわ。美香ちゃんとうまくやってるの?」


 な……何を言っているんだ、母さんは。


 思わず、食パンを吹き出しそうになった。


「そんな関係じゃねぇよ」


 俺はそう言いながら、待ち合わせ場所へと走る。


 待ち合わせ場所は、バスケットゴールのある公園。


 あぁ~、バスケがしてぇなぁ


 あっ、そんなこと考えている場合じゃなかった。


 完全に怒られる。


 息を切らして、バスケットゴールのある公園につく。


 ゼーゼーしながら、バスケットゴールにもたれかかると、地面に影が映る。


 心を落ち着かせて顔を上げると、そこには美香がいた。


「全く、バスケのときは、真っ先に来るくせに、デートの待ち合わせは遅れてくるのか」


 美香におもいっきり肩を叩かれる。


「わ、悪い……」


 俺は謝ってから、ふと気がつく。


 これからどうするんだ? 俺、何も考えてなかったぞ。


「なぁ、これからどうするんだ?」


 美香に聞いてみると、美香はにっこりと笑った。


「ノープラン。何しようかなぁ」


「えぇ?!」


 ノープランって……


 俺も考えていないし、どうするんだよ。


「樹も何も考えてなかったの? ってか、考えるわけないか」


 美香は大笑いして、俺の肩をポンポン叩く。


「って、痛いって、美香」


 俺は困惑する。


「じゃあ、買い物に付き合ってもらうよ。今日は」


 美香は上機嫌だ。


「えっ? それって俺がいなくても……」


 美香に睨まれた。


 俺は言いかけて、続きを話すことをやめた。


 なんだか怒られそうだ。


「女心わからないかなぁ~。一緒に買い物することが楽しいんだよ」


 美香は人差し指で頬をツンツンした。


 そうなのかと言いたいところだったが、口に出してしまうと、また、美香に怒られそうなので黙っていた。


「ショッピングってどこ行くんだ?」


 俺は聞く。


 美香は少し考えてから、フッと笑った。


「内緒」


 美香はそう言って、俺の腕を組んだ。


「お、おい……」


「とにかく行こう」


 美香はルンルン気分で歩き出した。


 どこ行くんだ。俺はバスケしたいんだけどな。


 しばらく歩いて、辿り着いたところはスポーツショップだった。


「スポーツショップ?」


 俺は意外過ぎて目を丸くした。


「そうそう、ほら、入るよ」


 美香にリードされて、スポーツショップに入っていく。


「樹はスポーツショップには興味があるでしょう?」


「えっ……? でも、なんで……?」


 俺は戸惑う。まさか、美香が考えてくれていたとは思わなかったからだ。


「樹さ、バッシュが欲しいんじゃないの? もう、ボロボロだもんね。私がプレゼントするよ」


 美香の発言に、俺は驚愕する。


 びっくりさせられることばかりなんだけど。プレゼントってどうして?


「樹、選んでよ。バッシュ」


 美香に言われて、バスケットボールシューズの売り場にやってきた。


 バッシュは略称だ。バスケットボールシューズなんて長くて言いにくい。


「プレゼントって、バッシュは高いだろ。なんで、プレゼント……?」


 俺は質問する。


 美香はその質問に、頭を抱えた。


「マジか。樹、自分の誕生日も覚えてないのか」


 美香はため息をついていた。


 えっ? 誕生日? あれ? 今日って8月1日か。自分の誕生日なんてすっかり忘れてたわ。


「だから、誕生日プレゼント。私にプレゼントさせてよ」


 美香はニッと笑った。

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