再びインターハイ予選8

 第2クォーターが始まって、2分。メンバーを大幅に変更した。


 城伯高校のメンバーは、慧、智樹、拓斗、風斗、康人。


 平塚高校のメンバーは、津田、江村、北野、安井、川野。


 城伯高校のディフェンス。川野がドリブルをしながら、ゆっくりとどんなプレーをするか思案している。


 津田が拓斗のディフェンスを塞ごうとスクリーンをかけにいく。


 津田をマークしていた智樹が津田を追っていく。


 川野と重なりそうになった時、慧は冷静に判断して、声をかけた。


「スイッチだ!」


 智樹と拓斗は、慧の声を聞いてディフェンスを入れ替えた。


 スイッチはディフェンスを入れ替えること。


 この場合、津田には智樹、川野には拓斗がディフェンスについていた。津田がスクリーンをかけに行くとき、津田と川野が重なるときがある。そこで、智樹が川野に、拓斗が津田のディフェンスにつく。これがスイッチだ。


 川野は智樹のディフェンスを振り切ることはできなかった。シュートに行こうとしたが、打てる状況ではない。だからといって、パスもできそうにない。


 苦し紛れに川野はシュートをした。


 そのシュートは、リングに当たることなくエアボールとなった。


 智樹のディフェンスが良くて、川野は無理矢理シュートを打たされた形となった。


 そのエアーボールを取ったのは、江村だ。


 残り5秒。バスケには24秒ルールがあり、24秒以内にシュートをしなければならないが、ボールがリングに当たらなければ、24秒はリセットされず、継続となる。


「慧! あと5秒守り切れ!」


 俺は慧のことが心配で思わず叫んだ。


 俺の声が届いたのか。


 慧は江村にシュートをさせなかった。


 江村は無理だと思ったか、ドリブルをしてゴールから少し遠ざかる。


 江村はそこを見逃さない。ドリブルをして、慧との距離が空いた。


 迷わずシュートを放つ。


 その瞬間。


 慧は足や体の震えを忘れて、タイミングを計り、ボールをはたいた。


「ナイスブロック! 後は俺が取る!!」


 康人が親指を立てて、慧を褒めると、ボールをジャンプして取って、風斗に合図した。


「走れ! 風斗!!」


 康人が考えていたのは、速攻だ。


 ドリブルをしながら、風斗が走っているのを確認する康人。


 風斗がゴールをチラッと見て、行けると判断したか、康人にアピールする。


「パス! 康人!!」


 康人は、ドリブルをして走りながら、風斗にそのままパスを出した。


 風斗は落ち着いていて、パスをもらう。北野が慌てて風斗にディフェンスについて、風斗の目の前に来ていた。


 風斗はそこでも冷静だった。北野を騙そうとして、左足を一歩前に出した。


 北野はボールを奪おうと、思わずジャンプしてしまった。


 そこを狙った風斗は、一歩前に出した左足を元に戻し、ゆっくりと構え、後ろに下がりながらシュートをした。フェイダウェイだ。


 シュッ


 綺麗な音を立てて、ボールはリングに吸い込まれていった。


「よっし!」


 風斗は拳を握ってガッツポーズをした。


「ナイシュー!」


 康人が風斗にグータッチをして喜んだ。


「今のは康人のパスも良かったけれど、慧がシュートをブロックしなかったら、このプレーは生まれなかったね」


 美香は風斗のシュートスコアを記録しながら、興奮した様子で呟いた。


「よし、ディフェンス!」


 俺はベンチから声を出して、手を叩く。


 川野は北野にパスを出して、様子を見る。


 北野がディフェンスを引きつけようと試みた。


 風斗が北野をマークする。


 隙を見て北野はドリブルでシュートに行こうとした。


 そこに慧も北野のディフェンスにつく。


 風斗と慧のダブルチームで、北野の進行を防ぐ。


 北野はなかなかシュートもパスもできずにいると、笛が鳴る。


「トラベリング」


 審判は、北野のトラベリングをとる。


 トラベリングは、ドリブルをしていない時、3歩以上歩いてはいけない。


「ナイスディフェンス!」


 拓斗はそう言うと、すぐにオフェンスに切り替える。


 ボールを持ったまま、メンバーの準備が整うのを待つ。拓斗は智樹に合図した。


「智樹、切り込め」


 智樹はゴール下のほうへと走り、パスをもらいに行こうとする。


 同時に拓斗はシュートをすると見せかける。


 川野は拓斗の動きを見て、シュートと判断し、手を高く上げる。その瞬間、川野の右側からバウンドさせたパスを智樹に出す。


 智樹はパスをもらうと、すぐにゴールのほうへ、くるっと向きを変えた。智樹はシュートをしようとしていた。でも、津田がしつこくついてくる。


 智樹は一瞬で周囲を見回すと、慧が開いている。


「慧!」


 智樹は慧にパスを出す。


 慧は智樹からボールを受け取ると、スリーポイントラインを確認する。


 フーと息を吐くと、シュートを放つ。このとき、時間が止まったような感覚だった。


「あれ?」


 俺は先ほどのシュートブロックといい、今のスリーポイントといい、慧のプレーが変わったような気がした。


 シュッ


 慧のスリーポイントシュートは、綺麗に決まった。


「ナイス!」


 智樹が慧の肩を叩く。


 慧のプレーに迷いがなくなった。足の震えも体の震えもなくて、戸惑っていない。何があったのだろう。完全に迷いがなかった。


 それは平塚高校のメンバーも感じていたようで。


「あのセンター、ブレなくなったな」


 ベンチで見ていた立川がそう言っているように見えた。


 俺のベンチまで立川の声は聞こえなかったが、表情でなんとなく感じた。


  ここから、慧はびっくりするほど、リバウンドとシュートで大活躍した。


 気がつけば、この第2クォーターだけで、リバウンド12、シュート18得点も取ってる。


 美香がつけているスコアノートを見てびっくりだ。


「慧、いつの間に……」


 美香も相当びっくりしている。


 第2クォーターは、慧の活躍で終了する。


 50-48


 俺は試合を見ることに夢中で気がつかなかったが、いつの間にか、2点差ではあるけれど、逆転したんだ。

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