再びインターハイ予選5

 俺はすぐに攻撃しようと、ドリブルでスリーポイントラインまでボールを運ぶ。


 素早く全体を見る。


 智樹に合図を出して、ゴール下に切り込んでいけと指示を出す。


 智樹は頷くと、山木のディフェンスをかわして、パスをくれとアピールする。


 俺は頷いて、智樹を囮に使う。


 パスすると見せかけて、自分でドライブしていこうと試みた。


 ゴール下までボールを持って行くことは、出来なさそうだ。


 川野のディフェンスは硬い。それでも、ドライブで行くと見せかけ、一歩引いた。


 川野のディフェンスがズレた。


 迷わず、俺はシュートをした。


 スリーポイント。


 打ったときの感触があまり良くない。これは外れた。


 ボールはボードに当たり、弾かれた。


「リバウンド!」


 慧がリバウンドを取りに行ったとき、同時に安井がリバウンドを取ろうとしていた。


 そのとき、慧の足がまた震え出した。


 ジャンプができなくて、リバウンドは安井が取った。


「ディフェンス!」


 俺の声に城伯高校のメンバーは、すぐにディフェンスへと戻る。


 俺は全体を見回しながら、どんな攻撃を仕掛けてくるか、予想しようとしたときに慧の息遣いに気づいた。


 慧の息遣いが荒い。試合開始から、まだ、3分経ったばかりだ。


 イップスが関係しているのか。リバウンドをミスったことで、変な緊張感が襲っているのかもしれない。


「慧、焦らなくていい」


 高宮コーチも異変に気がついたらしく、慧に声をかけた。


「はい」


 慧は返事をして、心を落ち着かせようと深呼吸している。


 試合に集中だ。とりあえず止めなければ!


 俺は川野を徹底的にマークした。


 安井はボールを持ちながら、右足だけを動かす。ピボットというものだ。


 ピボットを踏んで、ディフェンスを振り切る。


 貴がしつこくディフェンスをするものの、貴の股から、立川にパスが通ってしまう。


 立川は迷わず、シュートに行こうとしている。


 慧は立川を止めようと、足を踏み出す。


 ディフェンスが甘すぎた。


 慧の左側が完全に空いている。


「しまった……!」


 立川は慧の左から、スーッと抜けていき、ボールをゴールに置いてくる、レインアップシュートで決める。


 俺にはすぐわかった。慧は足が震えて動けなくなっていた。


 そう、まだ、完全にイップスを克服したわけではない。


 俺がフォローできていれば!


 悔しい気持ちになった。同じチームのフォローもできないとは。


 俺が悔しさでいっぱいになっていると、高宮コーチが慧を呼んだ。


「慧、座って落ち着こうか」


 高宮コーチはオフィシャルテーブルのところへ向かう。


 オフィシャルテーブルは、タイマーをセットしたり、ファウルを記録したり、交代するときなど、時間を止める役目がある。


 高宮コーチは慧をベンチに下げ、快をコートに入れた。


 慧は素直にベンチに下がったが、悔しそうだった。


「……やっぱりまだ、ダメなのかな……」


 慧はベンチに下がり際、俺にボソッと呟いた。


 高宮コーチも気がついて、慧の肩をポンッと叩いた。


「さっきのスリーポイントは良かったぞ」


 高宮コーチに言われて、慧は涙が溢れ出てきた。


 そんな慧の肩を、高宮コーチは抱きしめながら慰めていた。

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