プロ選手との練習8

 基礎練習を中心に、プロバスケの千葉レッドブルーの選手たちと練習をしていた俺たちは、休憩を挟んだ。


 細かい動作、位置がすごく大事なんだと気付かされる。


 プロ選手は、本当に凄いんだな。体の動きをひとつひとつ細かくチェックしている。


 俺は水を一気飲みする。


 本当は一気飲み、しちゃいけないんだけど。


 喉がカラカラだった。


 ハードな練習ではないけれど、地味にきつい練習なんだよな。


「5対5やろう。いいですよね? 高宮さん」


 その言葉で、一斉に相内選手に注目が集まった。


 相内選手が提案した。


「おお、いいね、楽しそう」


 相内選手の提案に乗ったのは、笹本選手。


「それなら、チームは混合でやってみよう」


 黒崎選手がさらに提案する。


「いいよ」


 依田選手が賛成すると、並木選手がOKと手で合図する。


 高宮コーチは、千葉レッドブルーの選手たちの提案に、ニコニコした。


「あぁ、いいぞ。刺激与えてやってくれ」


 高宮コーチの承諾を得て、5対5が実現した。


 俺、慶、貴、依田選手、笹本選手がAチーム。


 Bチームは、黒崎選手、並木選手、灯、達也、智樹。


 Aチームの控えに相内選手、Bチームの控えに拓斗、快。


 まずは慶と黒崎選手のジャンプボールから始まる。


 取ったのは、Bチーム。


 ボールを持っているのは、灯。灯はすぐに並木選手にパスをする。


 並木選手はボールを持って、ドリブルやパス動作をする前に、チームがマークマンにつくことを確認する。


 準備が整うと、並木選手が仕掛けてきた。


 ドリブルをする前に一歩前に右足を出し、1対1で勝負する。


 俺はシュートに行かせないと、ついて行こうとした。


 その動きを読んだのか、それとも、いつの間にか合図を送っていたか。


 達也が切り込んできた。


 並木選手は達也にパスをするのか。


 俺はそう読んで、カットを試みる。


「あっ!」


 違う。達也は囮だ。


 並木選手は自らシュートをしようとしている。


 読み間違えたか。


 俺が目を丸くしていると、並木選手は自分の後ろ斜めにいた灯にパスをした。


 灯の本来のポジションは、スモールフォワード。


 でも、ここではパワーフォワードだ。


 前に高宮コーチが、あえて、自分のポジションとは違うポジションで練習したことがあった。まさに、その練習が生きた。


 俺たち城伯高校にとって驚きのプレイ。


 灯がパスもらうことに、反応できなかった貴は、ディフェンスが甘くなった。


 灯にとっては最大のチャンス。


 ノーマークで、スリーポイントを狙える。


 灯は迷わずにスリーポイントシュートを打った。


 そのスリーポイントシュートは、無駄な力がなく、柔らかな手首のスナップで、見事にシュパッと入っていった。


 フェイクをいくつも仕掛けてきたことに、驚きと悔しさも出てきた。


 俺って引っかかりやすいな。


 数秒のうちに、何度もフェイクを仕掛けるとは、並木選手、判断が早い。


「今のナイスな判断だよ」


 灯は、並木選手に褒められて、ニコッと笑った。


「並木選手の判断がよかったからです」


 灯と並木選手はお互いに良いところを褒め合った。


「じゃあ、今度は俺らが攻撃する番だな」


 依田選手に言われて、オフェンスの準備に入った。


 プロの選手とのチームを組んでの試合形式練習。


 こんな機会、滅多にない。


 そう思ったら、いつものように、ワクワク感と緊張感が増した。


「あぁ、また、いつもの緊張状態に」


 美香が、ガチガチに硬くなっている俺の顔を見て、ため息をついた。


「リラックスだよ、樹!」


 美香は大きな声で声をかけてきた。


 体育館中に響き渡って、俺は恥ずかしくなった。


「大きな声出すなって……」


 俺はボソッと、美香に聞こえない声で呟いた。

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