プロ選手との練習7

 シュート練習が終わったら、フットワークの練習。足の使い方を学ぶ。まずは、普段やっている俺たちのフットワークを千葉レッドブルーの選手たちに見せることになった。


 フットワーク練習を見て、すぐに黒崎選手が指摘してくれた。


「足の位置、気をつけよう。今のだと足が横に開いている。でも、実際、バスケをするときって足を横に開いてスライドやドライブ、ディフェンスはしないよね。足を前後にして、ラウンジスクワットの形だよ」


 ラウンジスクワットとは、足を前後にして行うスクワット。その形がフットワークには最適だ。


「ラウンジスクワットの形を作りつつ、横にスライドしていくんだよ」


 依田選手が黒崎選手の指摘につけ加えながら、見本を見せた。


 確かに足を横に開いてスライドする場面は、バスケでは全くない。常に足は前後だ。


 もし、横に開いているとすれば、その場でドリブルをしているとき。キャッチしたとき。その後は必ず足を前後に開かないと素早く動けない。


 ほんのちょっとの位置が速く動けるか、動けないか決まってくるんだな。試合で使う、近い姿勢は凄く大事だ。


 今まで、なんで実践に近い姿勢で練習しなかったんだろう。


 俺は足の位置なんて気にしていなかったから、足を前後にして横にスライドすることに苦戦していた。


 どうも、ぎこちない。それだけ悪いクセがついていたんだな。


「力が入ってるぞ。リラックスしよう。力が入っていると早く動けないぞ。まずは顔の筋肉が固くならないように」


 相内選手が笑顔を作って見せる。


「作り笑いでもいい、とにかく笑顔を見せていこう。リラックスを作るための一番の方法だよ」


 相内選手の言葉に、城伯高校のメンバーは一気に緊張がほぐれた。


 ここで、高宮コーチが問う。


「なんで、笑顔が必要だと思う? 笑顔がもたらす効果はリラックスだけじゃないぞ」


 達也が笑顔でフットワークの練習をしながら、高宮コーチの質問の答えを示した。


「つまり、こういうことだよね」


 笑顔でフットワークをしている達也の姿に、智樹が呆然として、一言。


「不気味だ……」


「そう! それ!」


 笹本選手が指をパチンと叩いて、智樹の一言に頷いていた。


「相手に笑顔を見せることで、相手は不気味さを感じて怯むんだよ。その隙を見て抜いたり、フェイクを入れたりしやすくなるんだよ」


 快は納得した。


「確かにそうだ。その通りだ。今、凄く不気味だった」


 あっ、なるほど。ん? 待てよ。高宮コーチは、いつも笑顔だ。


 そうか、いつも笑顔だから、高宮コーチのことが読めないんだ。


 練習のことも俺たちに考えさせているけれど、たまに何を考えているのか読めないことがある。


 並木選手がフッと笑う。


「それだけじゃない。チームが元気になるから、雰囲気が変わる。だから、悪いムードになったときも断ち切ることができる。笑顔はメリットだらけだ」


 笑顔があるときに暗いチームになることはない。


 悪い状況になったときにも笑顔になれば、それだけで前を向けて、また流れは変わってくる。


 依田選手が並木選手の言葉に頷きながら、自身の考えを述べる。


「流れが相手のチームに行くことは必ずある。そのときに暗いまま試合をするのか、元気よく明るく笑顔で試合するのかで変わってくるんだ。悪い流れになったときに、その悪い流れとは切り離して考えることが大切だと俺は思うよ」


 そういえば、俺、富滝高校と対戦したとき、全く余裕がなくて悪い流れのまま練習試合してたな。


 そのときに、その悪い流れは悪い流れで、これからどうするか、切り離して考えることができなかったし、笑顔も出せなかったな。


 これからは意識して笑顔を出そう。そして、悪い流れは悪い流れとこれからの試合内容を切り離して考えることも。


 相内選手も依田選手の言葉に賛同する。


「そうそう、それでも、なかなか流れを変えられなかったり、個人的に納得するプレイができないこともある。それでも、それなりに、今、できることをする。それが、メンタル面でのこと。笑顔だったり、仲間を励ましたりすることはできるよな?」


 そうだ。納得するプレイができなくても、流れが変えられないときも必ず出てくる。


 そのときでも、今、できることに注目すると、笑顔を作ることや仲間を励ますことはできる。


 俺たちに足りないのは、そこだ。まだまだ仲間を励ますことも足りてないし、元気さが足りない。まだ、どこかで暗さを感じたりする。


 試合中なら、ポイントガードの役目でもある。


 目指そう、千葉レッドブルーの選手のような人格者。

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