王者、福岡私立富滝高校との練習試合11

 フリースロー。


 慧は1本目のフリースローを打つ。


 柔らかく手首を使って、ふわりとボールを浮かせた。


 入る。


 ボールが離れた瞬間に直感した。


 ボールは綺麗にシュッとゴールに吸い込まれた。


「よっしゃ」


 俺は慧と小さくハイタッチをした。


 フリースロー2本目。


 慧は息を吐き、軽く両手でドリブルをし、整える。


 軽く手首のスナップを利かせてシュートを放つ。無駄な力を入れないシュートフォーム。


 だけど、慧にしては力を入れすぎたか、ゴールから少しズレた。


「リバウンド!」


 俺は咄嗟に城伯のメンバーに、すぐ、リバウンドに入れるように声をかけた。


 慧のシュートはリングに弾かれた。


 ボールが宙を舞う。


 リバウンドを制するのは、貴か木谷か。


 同時にジャンプしている。


「うぉぉぉー!」


 ボールを取ったのは貴だ。


 俺は貴が取った瞬間、すぐに走り出し、ゴール近くで、ここにいるぞとアピールする。


「いっけー!!」


 貴は俺に気がつき、富滝のメンバーが追いついていないことを見て、ゴール下から、相手のゴール下までのロングパスを出す。


 俺はしっかりとボールを受け取ると、そのまま、ジャンプシュートを決めて見せた。


 高宮コーチは、俺と目が合うとフッと笑った。


「覚醒しつつあるな」


 高宮コーチが呟いた。


 俺は親指を立てて、高宮コーチに合図した。


「樹なら大丈夫だよ!」


 美香の声もした。


 美香にも親指を立てて笑顔を見せた。


 俺はすぐにディフェンスへと戻る。


「うまくなってるんだな、おまえも」


 武田はそう言うと、ドリブルのリズムを変えながら、どのようにゲームを制するか考えた。


 武田が合図すると、藤田が動く。


 藤田は俺のディフェンスが出できないように、スクリーンをかけにくる。


 ほんの数秒、俺は動けず、その間に武田が切り込んでくる。


 藤田をマークしていた達也は、俺とすれ違ったとき、ボソッと耳打ちした。


「スイッチだ」


 俺は頷いて、マークを変えた。


 俺が藤田を、達也が武田をマークした。


 武田は、一度、シュートをする動作をする。


 達也が壁を作り、シュートを阻もうとしたときだった。


 武田は達也をかわして、シュートに持ち込んだ。


 これがダブルクラッチ。


 武田は見事にシュートを決めた。


 武田はお返しだと言わんばかりに、俺を睨みつけてきた。


 だけど、不思議だったが、全くイラッともしなかった。悔しさもなかった。このとき、俺は武田に負ける気がしなかった。初めての感覚だ。


 俺はドリブルをしながら、人差し指を立てて、手を挙げた。


「1本行こう」


 俺はドリブルからバウンドさせてパスをするという動作をする。でも、やりたいのはパスではない。


 自分でゴール下まで切り込んでいく。


 武田が、バウンドさせてパスを出すと勘違いして動いてしまい、俺は切り込みやすかった。


 切り込んだところに、戻ってきた武田に塞がれてシュートができなかった。


 戻ってくるのが速いな。シュートはできないならどうする。


 ふと、横目で見ると、達也にパスできる位置にいる。一瞬、慧のほうを見て、武田を惑わせた。


 武田が思わず、パスかシュートをすると思ってジャンプしていた。そこを見逃さなかった俺は、達也にパスをする。


 達也は俺からのパスを受け取ると、ドリブルをすると見せかけるために、一歩を大きく出し、元に戻る。


「スリーだ!」


 元森が叫ぶ。


 元森の声も空しく、達也は既にシュートを放っていた。


 シュッ


 見事にスリーポイントが決まった。


 同時に笛が鳴る。


 試合終了だ。


 結果は、32-30。


 2点ビハインドで、城伯高校の負け。あと1分あれば勝てた試合となった。ただ、俺たちは、これで自信がついた。


 日本一の富滝高校に2点差まで追い詰めたのだ。


 俺たちでも勝てるんだ。


 富滝高校に。

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