王者、福岡私立富滝高校との練習試合7

 いよいよ、強豪校、富滝との練習試合が始まる。練習試合だというのに、この緊張感。俺、大丈夫か。この状況だと冷静な判断ができなくなりそうだ。落ち着け。


 そう考えているうちに、ジャンプボールとなった。試合開始の合図。試合開始のことを、バスケではティップオフというんだ。


 ジャンプボールはセンター同士。富滝は元森猛もともりたける。城伯は慧だ。


 ジャンプボールでボールを奪ったのは、藤田啓太ふじたけいた。富滝のシューティングガードだ。


 藤田はポイントガードの武田大地たけだだいちにボールを渡した。


 俺は武田のマークにつく。負けたくない。武田には。しっかりと基本のステップを踏み、武田のマークについたつもりだった。


 気持ちだけが先を行き、空回りしたか、簡単に武田に抜かれる。


「甘い!」


 武田は、俺の脇の下をあっさりと抜けていく。


 悔しい。こんなにも簡単に抜かれるのか。


 抜いた武田は一気にゴール下へと突っ込んでいく。貴と慧がダブルチームで、武田を止めようとした。でも、ダブルチームを作るときの一瞬の隙を見逃さなかった。


 真ん中が数秒空いた。その数秒のうちに武田は切り込んでいき、フックシュートを決めた。


 フックシュートは片手にボールを乗せて、ふわっと投げて入れるシュートだ。


「慧、貴、ごめん」


 ディフェンスができなかった俺は、不甲斐なさを感じて慧と貴に謝った。


「まだ、始まったばかりだ。オフェンス! 切り替えろ!」


 慧が素早く自分のポジションに戻りながら叫んだ。


 達也から俺にボールが渡る。


 どう組み立てる? 武田はスピードがある。無理に突っ込めば、ボールは奪われる。


 その場でドリブルをしながら考える。


 ふと低い体勢になり、ドリブルを低く早くして、中へドライブすると見せかけて、達也へとパスをした。


「樹!読まれてる!!」


 達也の声が聞こえていたときには、すでに遅し。藤田が達也へのパスをカットしていた。まさにインターセプト。


 俺は呆然とした。やっぱり緊張しているせいもあるのか。体がガチガチだ。思うように動かない。


 いや、これが今の俺の実力。これじゃ、ダメだ。ゲームが成り立たない。


「落ち着けって、樹」


 灯が通り過ぎるときに肩をポンッと叩いて声をかけてくれた。


「お、おう」


 俺は灯に言われて、緊張がほぐれるかと思ったら、余計に緊張してしまった。


 なんで、緊張しているんだ。やっぱり武田がいるからなのか。俺は武田に対して恐怖があるのか。まだ、練習試合だぞ。


「樹、ディフェンス!!」


 達也の声が飛ぶ。


 しまった!! 余計なことを考えていたら、武田がボールを持っていることに気づくのが遅くなった。


 ディフェンスが遅くて、武田にまたしても抜かれてしまい、ゴールにボールを置いてくるようにしてシュートをした。


 レインアップシュート。城伯の立ち上がりが悪い。3分も経たないうちに、10得点も富滝に入れられている。


 まだ、3分も経っていないのに、10点ビハインド。全て俺がゲームを支配できていないせいだ。


 仲間の見えないところで、俺は舌打ちした。自信もなくしていく。


「相変わらず下手くそだな」


 武田が見下してくる。まるで、お前には無理だと言われているようなものだ。


 俺は拳を握った。悔しい。確かに兄ちゃんや姉ちゃんと違ってバスケの技術もないし、センスもない。でも、俺は俺だ。俺のバスケがあるんだ。


「ちくしょう……!」


できないイライラと、頭の片隅にある勝てるという気持ちが複雑に絡み合っていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る