凄腕のコーチがやってきた17

 俺と慧が高宮コーチに教わったことを、メンバーに共有している途中。


 高宮コーチがやってきた。


「おぉ、揃ってるな」


 高宮コーチはバスケ部メンバーを連れてくるとは思わなかったのか、苦笑いした。


「とりあえず、今日は足を先に動かせるように練習しようか」


 高宮コーチは指示をして二つのチームに分ける。


3ポイントのラインより後ろ。


一つのチームはゴールから真正面。もう一つのチームはゴールから45度の角度に立つ。


45度の位置にいるチームはパスをする。


 ゴールの真正面の位置にいるチームはシュートをする。


「このとき、大事なのはいかに速くシュート動作に入れるかがポイント」


 高宮コーチは説明するとやってみせる。


「軸足にする足を先に準備する」


 高宮コーチは、キャッチするとき、すでに右足は地面、左足は地面に接していない。つまり、片足でキャッチしていた。このとき、軸足は右足。


「遅い理由は、キャッチしてから片足つくから。片足ついた後にキャッチする」


 高宮コーチはもう一度、やってみせた。今度は悪い例。


「キャッチしてから軸足をつくと、これだけで1歩とられる。トラベリングは3歩以上だよな?」


「あっ、軸足を先についておけば、1歩はカウントされない!」


 俺はポンと手を叩いた。


「その通り。今は右からパスをもらっている。だから、右足を軸にして、右足を先に準備したほうがロスはない」


 高宮コーチは、俺に笑顔を向けると、はい、やるよ! と手を叩いた。


 まずは、快と慧でやることになった。


 慶が快にパスをする。


 できるかな。キャッチのほうが早くなってしまって、足がワンテンポ遅れてしまうことが普通だ。


 でも、軸足が先に着地していれば、1歩にはならない。


 軸足ではないほうの足は何歩でも動かして、ディフェンスを揺さぶりやすくなる。いわゆるピボットだ。


 慶が胸から出すパス、チェストパスをする。


「快!」


 快は軸足を準備する前にキャッチしてしまった。


「あっ」


 自分でも気がついていたらしく、失敗して落ち込んでいた。


「快だっけ? 自分でできなかったことに気付いたのは良いことだ。あとは意識してたくさん練習あるのみ」


 高宮コーチは親指を立ててグーッと合図をした。


「これ、日本代表でもやる練習なんだ。これで速く動けるようにする」


 次に俺と貴がやる。俺がシュート。貴がパスを出す。


 足を先に準備する。心に言い聞かせて、パスをもらう。


 股関節でしっかり踏み込む。


 ジャンプシュート。


 シュッ


 ボールは綺麗にゴールに吸い込まれた。


「なるほど」


 ようやく股関節を使う感覚が掴めた。


 集中していたのか、わずか1秒くらいの動きなのに、スローモーションに感じた。


「そう、その動き。股関節もちゃんと使えてる」


 今の練習を左右、10分間行う。その後はすぐに別の練習を行う。


「次、ディフェンス確認するぞ」


 高宮コーチが手を叩く。


「美香と俺も入って5対5の形を作る」


 高宮コーチは、パッと振り分ける。


「さて、ディフェンスのパターンはいくつかある」


 高宮コーチはディフェンスのパターンをゆっくり説明しながら自らやる。


「まずは、ボールマンだけでなく、左右も見る。さて、左側の人がボールをもらうと仮定する。ボールマンを守っている人はパスカットしやすくなる」


 高宮コーチは再びポジションに戻るように指示する。


「次はスクリーンに対するディフェンスだ。まずは……」


 5対5で確認をする。


 Aチームは、俺、慧、貴、達也、灯。


 Bチームは、拓斗、快、高宮コーチ、智樹、美香。


 Aチームはディフェンス。Bチームがオフェンス。


 俺は、拓人をマーク。慧は快、貴には高宮コーチがついている。達也には智樹、灯にはマネージャーの美香がつく。


「よし、拓斗、まず、智樹にパスして」


 高宮コーチの指示通りに拓斗は智樹にパスを出す。


「智樹がドライブしやすくするためにはどうする?」


 高宮コーチが全員に問う。


 ドライブ、それはドリブルでゴール下まで切り込んでいくこと。このドライブをしやすくするには、スペースを空ける。そのためにはどうするんだ。


「スクリーンをかける。拓斗がディフェンスの達也にかけにいく」


 慧が言うと、高宮コーチは頷く。


「そう。スクリーンをかけることで、智樹がドライブしやすいようにする。例えば智樹が左からドライブをするときは、どうすればいい?」


 再び、高宮コーチは質問した。


「実際に拓斗、スクリーンをかけてみようか」


 高宮コーチが言うと、拓斗は達也にスクリーンをかけに行く。


「このとき、達也は一瞬、動けなくなる。その隙に智樹がドライブする。ここで、ストップ!」


 高宮コーチはもう一度、智樹がドライブする前の状況に戻す。


「拓斗が達也にスクリーンをかけに行くとき、達也にぶつかるギリギリに、味方のスペースを空けるポジションをとる。それから、拓斗がスクリーンをかけに行く、そのとき樹は拓斗についていくよな。さて、ここからがディフェンスの確認」


 高宮コーチは指をパチンと鳴らす。


「ここで、達也と樹が接する。さて、このとき、ディフェンスが入れ替わることがスイッチ」


 拓斗がスクリーンをかけに行って、拓斗についていた俺が智樹につき、達也が拓斗についた。


 これは単純にディフェンスが入れ替わるだけなので、比較的簡単な方法だ。


「これは簡単だけど……もう一つ。ファイトオーバー」


 高宮コーチは、拓斗がスクリーンをかけに行った状態にする。


「樹、今度は、拓斗と智樹の間を通って、拓斗についていく」


 俺は言われた通りにやってみる。これがファイトオーバーか。こうすることで、オフェンスを妨害していく。


「じゃ、次、拓斗がスクリーンをかけたとき、樹、今度は拓斗の後ろを通り過ぎて、拓斗につく。これがスライド」


 高宮コーチは樹に指示をした。


 うっ、スイッチにファイトオーバーにスライド。スイッチはまぁ、ディフェンスが変わるから、わかりやすい。ファイトオーバーとスライドまで頭に入れられるか。


 今はゆっくりやっているからわかるけれど、試合になったら、パッとできなさそう。


「最後、拓斗がスクリーンをかけに行き、智樹のスペースが空いてドライブしに行く。智樹、ドライブ!」


 高宮コーチの声に智樹はドライブする。


「樹と達也で智樹をマーク。つまりダブルチームをかけに行く。これがブリッツ」


 高宮コーチが言う。


 俺は一気にいろんなやり方を教わり、頭の中で組み立てようとした。


「ただ、これはちゃんと意思疎通ができてないと成り立たない。さっきのフットワークとスクリーンディフェンスを使って5対5をやってみよう」


 高宮コーチは手をパンパンと叩く。


 えっ? 急にできるのか? こんなこと? 俺は少し焦った。


「よし、今のチームで5対5。Aチームが最初ディフェンス。今のディフェンスはどこで仕掛けても良いぞ」


 高宮コーチはそう言うと、俺にボールを渡す。


 何も整理がつかないうちに5対5開始だ。

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