凄腕のコーチがやってきた18

 5対5の練習開始!


 それぞれのチームとマークする人を確認しておこう。


 Aチームは、俺、慧、貴、達也、灯。


 Bチームは、拓斗、快、高宮コーチ、智樹、美香。


 俺は拓斗、慧は快、貴は高宮コーチ、達也は智樹、灯はマネージャーの美香につく。


 ファイトオーバーにスイッチにブリッツ、あとなんだっけ? 一気に教わって、それも1回しか確認していないのに、咄嗟にできるのか。


 俺は拓斗にボールを渡しながら考えた。


 拓斗は腰を低くしながら、ドリブルのリズムを変えて様子を見ている。


 股関節がしっかり使えているように見える。


 さて、拓斗がどう動くか。それによって俺はどのようにディフェンスをすればいいのか。


 ドリブルを低く細かくして、いつ仕掛けていくかを探っている拓斗。


 パンパンパンパンとドリブルをする音が響く。


 拓斗が考えていると、高宮コーチは灯にスクリーンをかけにきた。


 うわっ、早くも妨害された。


 拓斗はその隙に美香にパスを出す。


「ダブルチーム!!」


 俺は咄嗟に叫ぶ。


 美香についていた灯は、スクリーンによって、一瞬動きを止められた。


 その一瞬のすきに、美香はノーマークだ。


 灯は急いで美香のマークに戻る。


 更には、高宮コーチについていた貴は、高宮コーチのマークから、美香のマークにつき、ダブルチームを作った。


 美香はダブルチームを作られ、ピボットを踏みながら、どうすればいいか考える。


「こっち!」


 高宮コーチが美香の後ろで呼んでいる。


 俺は拓斗についていたが、高宮コーチに言われた通りに、周囲も見られる位置についていたから、パスをすると読むことができた。


 バシッ


 美香が高宮コーチにパスしようとしたとき、俺はボールをカットした。同時に貴も反応していて、マークを美香から高宮コーチに戻していた。


「ナイスディフェンス。今のは良い判断だ。よし、オフェンス、ディフェンス交代」


 高宮コーチが手を叩く。


 今度はAチームがオフェンス。Bチームがディフェンス。


 拓斗からボールを渡される。


 俺はフーッとため息をついた。


 達也にパスが出せそうだ。


 俺は一歩踏み出し、ドリブルすると見せかけた。


 拓斗が一瞬、動いたことを見て、達也がキャッチしてくれると信じて、ノールックでパスをした。


「っと!」


 達也はしっかりキャッチをすると、智樹をチラッと見て、ゴールに目を向けた。


 股関節がしっかり曲がっている。


 シュート態勢だ。


 その時だった。


 俺と達也と灯でアイコンタクトをとると、灯が拓斗にスクリーンをかけた。


 俺をマークしていた拓斗が灯に押さえつけられ、少しの間、動けなくなった隙に俺は中へと切り込んだ。


 達也は俺にパスする。


 でも、達也は自分についている智樹がパスすることを読んでいることを悟った。


 達也がやろうとしていることを察した俺は囮になる。


 俺がパスをもらってシュートを打つと見せかけて、達也は自分で3ポイントシュートを打つ。


 達也の得意な3ポイントシュート。


 シュパッ。


 ボールは見事にリングに吸い込まれた。


 リングやボードに当たらず、そのままボールが入る。こんなに気持ちいいことはない。


「拓斗、拓斗はポイントガードだ。判断が遅くなると、それだけで試合は一気に崩れる。どうしたいのか、しっかり伝えることが大切だ。テクニックは十分あるから、あとは何がしたいか。そこをしっかりと」


 高宮コーチは、拓斗に声をかける。


 拓斗は目を見開いて驚いていた。


「言葉で伝えるのが苦手だったら、合図を出す。チームにしかわからない合図だ。じゃないと、チームもどうしたらいいのかわからないからな。少しずつ修正していこう」


 高宮コーチに言われて、拓斗は頷きながら返事をした。


「はい」


「達也、達也のフェイクは見事だった。バスケは駆け引きも大事だ。結局は相手の動きを読んで動く。惑わせるように誘導しないといけない」


 高宮コーチはひとりひとりきちんと見ていて、ひとりひとりにアドバイスしている。


「よし、今日はここまで。ダラダラと長時間やっても、練習に集中できてなければ意味がない。基本は短時間集中の練習だ」


 高宮コーチはフーッと一息ついた。


 俺たちは高宮コーチに挨拶して、また明日やると約束して帰る。

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