凄腕のコーチがやってきた15

「よし! ディフェンスの練習だ」


 高宮コーチはディフェンスの構えをとる。


「ディフェンスのパターンはいくつかあるんだけど、今日は2人しかいないから、しっかりとはできない。でも」


 高宮コーチは俺のマークについた。


「慧、そこに立って」


 高宮コーチに言われて、慧は指示された位置に立つ。


 3ポイントラインの後ろで右側だ。


「樹も慧もボールを持っている人に対してディフェンスをするとき、ボールを持っている人しか見ていない」


 高宮コーチは、俺をマークしながらも、左右を見られる位置をとって説明をする。


「せめて左右が見られる位置にディフェンスについたほうがいい」


 高宮コーチは慧にパスをするように促す。


 俺は慧にパスをする。


 そのとき、高宮コーチはパスカットした。


「目の前のディフェンスだけでなく、常に周囲を見ている。そうすると、今みたいにパスカットを狙いやすくなる」


 高宮コーチは慧にボールを渡すと、今度は抜いてみろと指示した。


 慧は高宮コーチに言われて、ドリブルで左に1歩踏み出し抜こうとした。でも、高宮コーチがずっとついていて抜けなかった。


「ディフェンスはスペースを作らないようにして侵入を防ぐ。このとき、なるべく身体を当てにいく」


「結構、ギリギリ……」


 俺はピッタリと身体がくっつけてディフェンスをすることに、ちょっと怖さを感じた。


 それはファウルと紙一重だからだ。


 5ファウルになってしまったら、ファウルアウト、つまり退場になってしまう。


「そう、だからファウルには気を付けなくてはならない。手を挙げておけばファウルは避けられるから、なるべく横から身体を当てにいく」


 高宮コーチは一回呼吸を整えると、俺にディフェンスをやるように言う。


 俺はディフェンスの構えをとる。


「慧、2対1だ」


「はい」


 慧は高宮コーチに言われて返事をし、オフェンスができるように準備をする。


「ゆっくり行こう」


 高宮コーチがドリブルをして、俺に体を当ててきた。


 俺は怯んでしまい、あっさりと抜かれてしまいそうになったときだった。


 ドリブルをしていないほうの手で、俺を誘導する。


「この位置、この位置でしっかり体をくっつけて」


 俺は高宮コーチに誘導されてディフェンスをした。そのときの位置は、高宮コーチの脇だ。でも、高宮コーチよりも前に出ていて攻撃を防げる位置。


「慧!」


 高宮コーチはボールを慧に渡した。


「この位置を保てば、抜かれないで済む。ただし、今のは完全に遅い。それには、さっき言ったように股関節が大事」


 高宮コーチは水を少し含むと、慧を呼んだ。


「慧、樹と交代」


 慧は高宮コーチのマークにつく。


 高宮コーチはドリブルをして慧の動きを見ている。


 どう出るのだろう。高宮コーチの動きを見ながら、俺も動く。ゴール下まで来てパスをもらうフリをした。


 俺はおとりになって、高宮コーチが切り込んでくるように仕組んだ。


 高宮コーチは予想通り慧を抜いて、ドリブルでゴール下まで来た。そして、ピタッと止まり、ジャンプシュートをしようとした。


 だけど、慧も負けていない。高宮コーチについてきた。


 高宮コーチは慧が来てたことを知っていたから、ジャンプしようとして、俺にパスをした。


 ノールックパス。俺は左側の3ポイントラインのところにいた。それもちゃんと高宮コーチは見ていて、正確にパスを出した。


 俺はしっかりとキャッチし、3ポイントを打つ。


「慧、股関節を常に使えるように準備しておくんだ。たまに股関節が伸びてる」


「はい」


 高宮コーチに言われて、慧は楽しそうだった。


「よし、今日はここまで」


 高宮コーチは俺と慧の肩をポンっと叩いた。


「すべて、足が先だ。オフェンスにしてもディフェンスにしても足を先に準備しておく。これができるかできないかでスピードも変わる」


「はい」


「はい」


 俺と慧は元気よく返事をした。


 こうして、俺と慧は高宮コーチとの練習を終えた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る