凄腕のコーチがやってきた13

 基本中の基本。俺には同じに見えてたけれど、何が違うんだろう。


 慧はドリブルをしながら、頭を整理している。ドリブルしたほうが何か閃くのかな。


「慧、そのドリブルの仕方もアウトだぞ」


 高宮コーチに言われて、慧はドリブルして、1、2のリズムで足を踏み込み、3でジャンプし、シュートした。


「足の動きが遅いぞ。何故、足の動きが遅くなると思う?」


 高宮コーチは、慧にボールをくれとアピールする。


「よく見てみろ」


 高宮コーチは慧と同じシュートをして見せた。


 高宮コーチはドリブルからシュートまでの動作が速い。どういうことだ。やっていることは同じなんだけどな。


「あっ、姿勢!」


 慧は目を見開いていた。


「そう、姿勢。じゃあ、樹、俺と1対1だ。何が違うか体感してみろ」


 最初に俺がディフェンス。高宮コーチはドリブルをしながら、ふわりと俺の横をすり抜けた。


「えっ? 速い!」


 俺は呆然とした。ディフェンスが何もできなかった。低い体勢になっていたのもあるけれど、すり抜けたのは一瞬だった。身体の使い方がわからない。なんで、一瞬で抜けたのだろう。


「ほらっ、オフェンス」


 高宮コーチはボールを俺に渡す。


 俺はわからないまま、オフェンスをすることにした。フーッと息を吐いて、ドリブルをしながら、高宮コーチに軽くぶつかるようにしてゴールへ向かっていく。


 あまり強くぶつかってしまうと、オフェンスファウルになる。でも、ぶつかるようにしないと、ディフェンスから逃げられなくなる。だから、ファウルになるか、ならないかの瀬戸際が難しい。


 ちゃんとぶつかって、壁を作り高宮コーチの侵入を防いだ。だから、そのままシュートに持ち込もうとした。


 だけど、高宮コーチは速かった。


 すぐに俺の前に来ると、ドリブルをカットした。スティール。相手のボールを奪うことだ。


「スティール……」


「甘いな」


 高宮コーチはフッと笑った。


「基本の姿勢が崩れてるぞ。その姿勢がオフェンスでもディフェンスでも必要だ」


 高宮コーチの言葉に俺と慧はもう一度、姿勢について考えてみる。


「膝、曲がってないのかな……」


 俺はディフェンスするときの態勢になってみる。


「ストップ。膝が曲がっているだけだとスピードも上がらない。大きく見せるのはもちろん良いんだけど、背筋を伸ばしたままだと、膝だけが曲がりやすい」


 高宮コーチは俺と同じようにディフェンスの構えをとる。


「さて、速く動けるようにするには、膝だけじゃなくてもう一つポイントがある。それは何か」


 高宮コーチはボールを慧に渡した。


「2対1をやりながら、考えてみよう」


 2対1。俺と慧でオフェンスをやれってことだな。これでわかるのか。俺は答えを何か見つけようとしていた。


 高宮コーチは、答えを自分で導き出せと言っているんだ。多分、自分で答えを導き出すことができないと、試合では判断ができなくなるから。


 高宮コーチが言いたいことはなんだろう。


 考えろ! 俺!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る