凄腕のコーチがやってきた7

 俺と慧は部活の帰る途中で高宮コーチのところにやってきた。


「コーチ、久しぶりっす」


 慧は高宮コーチに声をかける。


 ちょうど、抗議が終わったところらしい。


 ホワイトボードを見ると、指導のやり方について書かれている。ということは、高宮コーチは、今、指導者を目指す人たちの指導をしているのか。


「おっ、久しぶりだな。どうした? 何か悩んでるのか?」


 慧が悩んでいるってわかるのか。この高宮コーチっていうのは。


「コーチには隠し事できないっすよ」


 慧は苦笑いして答えた。


 ん? この会話から推測すると、慧は悩みがあると、高宮コーチにいつも相談していたのか。


「コーチ、指導者を指導してるなら、この谷牧って奴も指導してほしい。あっ、バスケ部の顧問なんだけどさ……」


 慧はスマホで撮った動画を高宮コーチに見せた。


「ん? その前に隣にいるのは、バスケ仲間か?」


 高宮コーチは、慧に渡された動画を再生しながら、俺のほうを見た。


「あっ、俺、村野樹むらのたつるです。慧と同じチームの……」


 何故だか緊張している俺。慧から日本代表候補を指導したことのあるコーチと聞いていたからか。


 見た目はチャラくて軽い感じがするが、何故か直感的に思う。俺、高宮コーチにバスケを教えてもらいたい。


「なるほど、慧をよろしく頼むよ」


 高宮コーチはニッと笑うと、すぐに動画を見て顔を歪めた。


「あぁ、こいつは指導者失格だな。ってか、学校は何も対処してくれないのか?」


 高宮コーチは呆れていた。


 そりゃ、そうだ。この動画見たらな。


「何も対処してくれないんっすよ」


 高宮コーチの質問に、慧はため息をついた。


「バスケ部のコーチなんかやりたくなかったとか言ってるんなら、もう、完全にやる気ないな」


 高宮コーチは頭を掻いた。


「新しいコーチが欲しいっす。そこで、お願いがあるっす」


 慧は、お願いポーズをした。


「ん? なんだ?」


 高宮コーチは目をパチパチさせていた。


「俺らのバスケチームのコーチをやって下さい!!」


 慧は90度に曲げてまでお辞儀をした。


「また……凄い頼み事だな……」


 高宮コーチは相当驚いている様子だった。真剣に頼んでいる慧を見て、俺もお辞儀をして頼み込む。


「俺からもお願いします! 何やら先生たちの話を聞いていると、皆、顧問はやりたくないみたいで。先生の休みがなくなるとか……」


「参ったなぁ……」


 高宮コーチは腕組みをしながら一息つく。


「とりあえず、このコーチをどうにかしよう」


 高宮コーチは、俺と慧の肩をポンっと叩いた。


「俺、指導のやり方を指導する立場だから、教育員会とも関りがあったりするから、何とかしてみるよ」


 俺と慧が頭を上げたのを見て、フッと笑う。


「ありがとうございます!」


「ありがとうございます!」


 高宮コーチは付け加えた。


「ただ、コーチについては考えさせてくれ。いろいろとあるから」


「わかったっす。コーチをやってくれることも期待するっす」


 慧はニヤリと笑う。コーチをやって欲しいと思うのは俺もだ。俺は高宮コーチのことはよくわからないけれど、直感がそう言ってるのだ。


「また、相談に乗って下さいっす」


 慧はそう言って、俺に行くぞと促した。


 俺は慧と一緒にその場を後にした。高宮コーチ、どうにかしてくれるって言ったけど、どうするんだろう。


 慧は本当に高宮コーチのこと信頼しているんだな。ため口だったけれど、高宮コーチも気にしていなかった。だから、高宮コーチも慧のことは信じている。


 いいなぁ、そういうコーチがいるのは。指導のやり方を教えてもらう生徒にも人気があるのかな。


 俺たちが来たとき囲まれてたもんな。人間としてもできているコーチなんだろうな。


「じゃぁな、また、明日」


 慧は手を振って俺に背を向けた。


 あぁ、もう慧の家の近くに来たのか。


「あぁ、明日な」


 俺は、慧の家から、15分くらい歩いて家に辿り着く。


 玄関のドアを開けると、母さんの声がする。


「お帰り」


 俺はそっけない返事をして、すぐに自分の部屋に行く。


「ただいま」

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