第30話
議事堂では
「みんな、ここにいたのか、誰もいないから心配したよ」
爽やかなオーラを放ちながら
それだけで重苦しかった部屋の雰囲気がガラリとかわる。
「
「は? わ、わかった」
俺の声に瞬時に反応する
「離せよっ!」
彼に手首を掴まれた
しかし運動部男子が相手ではムダな努力。
「いったいなんの騒ぎなんだ?」
「なるほど、それは無視できないね。
じゃじゃ馬もおとなしくできるんだな。
遠征部隊のメンバーは席に座らず、入口近くに立っている。
「会議を再開する。
「意義ありません」
俺は
別にアイツを責めたいわけじゃないからな。
「わたくし疲れてます。早くお風呂に入って癒されたいですわ。こんなつまらない議題、早く終わらせましょう」
いつも美しい
「つまらないって、
きっと問題児が増えたと思っているんだろうな。
「少ない人数で生き延びようとしている村でイジメ? 問題外ですわ。そんな人、村で生活する権利などありません、追放裁判をおこなうべきです」
「いやいやいやいや、
「そうでしょうか。わたくしたちはすでに
クラスメイトはハッと気づいた表情になる。
ただし、ゴブリンに連れ去られた
俺が
それはそうと、
なぜ同じ結論に導いているのだろうか。
まさか思考が同類? 嫌だなそれは。
「
隷属の首輪の効果で記憶は曖昧なのだから。
「近年、村八分は人権問題として扱われますが、それは生活が安定している前提。三十人程度の村では、人権よりも生活を守るほうを重要視するべきです。協調性のない人が足枷となるのなら、それは村にとって害悪でしかありません。委員長、決を取ってください。
女子は勝てそうにない人には敵意を向けない。
その言葉のとおり、アイツは
俺には散々悪態ついたのにね。
「ウチは悪くない!
アイツは床にむかって叫ぶ。
たぶん
「アナタも
女王の貫録だ。
アイツが泣きそうになっている。
「男の奪い合いなんてみっともない。そもそも男は追うんじゃなくて追わせる生き物よ」
「それが言えるのは
「わたくしにそう言えるのは
彼女の意味深な発言に、みんなが『えっ?』って顔をした。
――ヤメテ! みんなでコッチ見ないで!
「
飴とムチ。
俺がムチをふる役目。
しかし
「なんでウチばっかり責められるの……。悪いのは
「ボクを取る? まるでボクがキミの所有物みたいだね」
けれど、失言なのはアイツにも理解できたようだ。
「あ、ちがうっ、ウチ、所有物なんて思ってないし」
この期に及んで男の心証を気にするなんて考えられない。
俺と同じ思いだろう。
「改心する気はないようなので追放裁判をおこなう」
これは想定外。飴すら取り上げられるとは。
自業自得だ。フォローする気にもなれない。
「待って! ウチを追い出すの? もうキレイな服が着れなくなるよ! かわいい服もなくなるんだよ! ねぇ!!」
「
男子はあの国で支給された騎士服か、学校の制服を着ている。
アイツの作った服を着ているのは、数名の女子だけだ。
俺の指摘でようやく気づいたようだ。
作っていた服に偏りがあることを。
趣味で作っていたことを。
村のために働いていなかったことを。
アイツの顔がみるみるうちに青くなる。
今さら遅いがな。
「それでは――」
「まって! まって、ください。ウチ謝るから、もうイジメはしないから」
悲痛な表情でアイツが頭を下げた。
「謝る相手が違うだろ」
俺のほうをむいた。
「俺じゃね~よ」
プライドが許さないのか、
「謝ってくれなくていいです」
話の流れに怯えていたのかもしれない。
自分のせいでアイツが追放されるかもしれないのだ。
「空虚な言葉なんていらないです。わたしに二度とかかわらない、そう約束してください」
「約束します」
結局アイツは
嫌な予感がする。
アイツは納得していない。絶対に仕返しするだろう。
肉体的なイジメに発展するかもしれない。
保険のため【恋愛対象】に
「会議は終了かしら? わたくし夜まで我慢できません。
「もちろんいいわよ、遠征お疲れ様」
この雰囲気の中、平然としていられるのだから、ある意味大物だ。
遠征に同行した弓道部の
森のなかでは体を洗えなかっただろうからな。
相当臭いのだろう。
臭い女子、ちょっと嗅いでみたい……。
「しかたないな、クラス会議は以上。遠征部隊の報告を聞きたい人は残ってくれ、後は解散」
半数が議事堂から退室した。
もちろん
俺は
話を聞きたいので俺も議事堂に残ることにした。
「まずは無事に帰ってきてくれたことを嬉しく思う。おかえりなさい」
良い笑顔だ
「ただいま。遅くなって悪かったね。いろいろ問題があったようだけど」
良い顔だ
「それについては後程相談させて欲しい。まずは遠征の成果を聞かせてくれ」
「石灰石はかなり掘れたと思うよ。それこそ山が消えそうなくらい」
「凄いな」
「他にもいろいろな鉱石が掘れたらしいんだけど、
茶道部の
宝石好きなら、多少は知識があるかもしれない。
けど、あの子、地味だし……。
「そこは
「ボクに扱える材料なら受け取れるはずだよ。
石灰石を欲しがったのは建設担当の
他の鉱石にも使い道はあるはずだ。
「採掘した場所は海に近くてね、塩は必需品だと思うから足を延ばして海までいったよ。
「それはありがたい」
「
「海釣りにルアーのない竿で挑もうとするからだ。俺は止めたぜ」
たぶん
海の魚をお土産にしてクラスメイトを喜ばせようと考えたな。
行動がイケメンだ。
「
「へぇ~、それなら次回は
それは無理だな。
アイツらはガチレズだ。
村にキレイな水が供給されるようになれば別だろうけど。
「行き帰りの道中では大量の獲物を狩ることができた。とうぶん狩りに出かけなくても肉に困らないと思うよ」
「さすがは狩猟部隊だ、頼りになる」
――待ってました、肉!!
「南は森の外へ向かうから魔物が弱くなる。次に遠征にいくなら攻撃系の加護はひとり減らしても大丈夫そうだよ」
「いや、それは安全を第一に考えよう」
「俺は残してきた村のほうが気になって仕方なかったんだけどね」
「その点は要検討だな。村の防衛も強化するんだろ」
「とりあえず堤防はコンクリートに強化するよ」
「木を伐採しならが進んだから遅くなったけど、次はもっと早く行けるよ」
「海の幸が手に入るなら、定期的に遠征部隊を派遣してもいいかもしれないな」
「そうだね。報告はこのくらいかな」
外でドンという音がしたのと同時に地面が激しく揺れた。
この揺れは身に覚えがある。
俺たちは議事堂から慌てて出た。
堤防の外側に、あのドラゴンがいたのだ。
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