第29話
川から引き込まれた水が水堀に流れ込む交差路。
そこの堤防のうえに、
彼女たちは公園にあるような簡単なベンチに座っている。
建設の加護をもつ
女子にたいする彼の細やかな優しさには感服する。
晴天のベンチで相合い傘をする女子二人。
なかなか絵になる風景だ。
魚が嫌いな
けれど、水産の加護が強力なバックアップをしてくれるようだ。
竿は玩具の加護をもつ
延べ竿、と言うらしい。俺は知らなかった。
疑似餌のついた糸をたらす。
すると、どこからともなく現われた魚が疑似餌に食いつく。
竿を引き、魚を水から上げると、ふっと魚が消える。
加護収納に取り込まれるのだ。
彼女は竿の上げ下げだけで魚が釣れる。
釣り好きが知ったら激怒する加護だ。
しかし、野菜の提供は再開されていない。
川魚のフルーツ煮は味の革命だと俺は思う。
味に関してはノーコメント。
せっかく作ってくれた
餓死の危機からは脱したけれど栄養バランスは悪い。
なんとかしないと――。
手の空いているクラスメイトが田畑で作業をしている。
そんな彼らを離れた場所の堤防の上から
「こんにちは、
「
「そうだね」
彼女は体育座りをしている。
俺は隣であぐらをかいた。
「わたしを説得しにきたの?」
「俺がそんな大役に選ばれることはないよ」
クリッとした愛らしい瞳で俺を見てくる。
「ふぅ~ん。去年の文化祭。一年生なのに演劇部のお芝居で役をもらってたよね~。凄く上手だった。それを見て『あ、この人、ふだんは無能を演じてるんじゃないかな』って感じたよぉ」
「買い被りだね」
「わたし、人を見る目はあると思うんだっ。いつもひとりで周囲の人の感情を読んできたから」
「感情を読むのが得意なら、敵意を回避できるだろ」
彼女は空を見上げ、はるか遠くへ視線を伸ばす。
「わたし、かわいい?」
その台詞が言えるのは美少女だけだ。もちろん彼女には資格がある。
「かわいいよ」
「ありがとう。――わたしね、中学では黒ぶちのだてメガネして、黒髪のダサいおさげにして、かわいいの隠してたんだ。そうやって周囲の敵意から逃れてたの」
今は少し明るい髪色のパーマのミドルヘアだ。
「そうなんだ」
「女の子ってね、ブスな子には関心ないんだよぉ」
「へぇ~。ならどうして高校からイメージチェンジしたの」
「一年生のクラスではわたしが一番かわいかったの。わかりやすいカーストポジションにいるとね、敵意って向けられないんだぁ」
質問の返事じゃないが、まあいいか……。
「怖い世界だね」
「今のクラス、誰が一番かわいいと思う?」
彼女は好奇心旺盛な瞳で俺の顔を
幼い妹が兄を困らせる質問をした。そんなシーンを思い描く。
「癒し系の
「
予想通りの結果。そう彼女の目が訴えている。
「まあね」
「どう頑張ってもわたしは三位。女子ってね、勝てそうにない人には敵意を向けないの。でも三位ならどうにかなりそうでしょ」
「かわいさは下がっていない。けれどカーストの位置が下がってしまったんだな」
「今さらダサいファッションしても、ナゼ? ってなるでしょ」
「なる、かもね」
本心は
彼女は空にむかって大きな
「これでも一学期は友達作ろうとしたんだよぉ~。でもね、それよりも早くイジメのターゲットに選ばれてしまったの。もう気丈に振る舞うしか手は残されてなかったんだ。悲しんでいる姿なんて見せたら食い殺されちゃう」
「女子ってホントにえげつないな」
声から艶が失われ、諦めにも似た口調で話を始める。
「わたしは農業の加護で野菜を作った。みんなのために頑張った。ちやほやしてもらう気なんてなかった。敵意さえ向けてこなければそれで良かった。けれど、あの人たちは変わらない。村の恋愛熱があがったことで、前よりも敵意が激しくなったわ」
「あーなるほど」
絞り出す声から彼女の心の痛みが伝わってくる。
聞いてる俺まで苦しくなった。
「ストレスで議事堂では寝れなくなったわ。だから病院に泊めてもらえないか
「食堂の
「銭湯の
「紙屋の
あれ? なんで
まさか
家具屋には
鍛冶屋には俺かいる。
それにしても不幸と言わざるを得ない。
彼らは理由を説明できないだろう。結果、回答を濁したはずだ。
「薬局しか行き場がなかったわけだ。でも
「どうしてわたしがこんなに苦労してるんだろうって考えたら、ど~でも良くなっちゃった」
「あ~あ……」
「彼の名誉のために言うけど、指一本だって触れられてないからねっ」
「マジか!!!」
最低二股ヤローだと思ってたけど聖人だったとは。
アイツの評価が二転三転するなぁ。
「つまらない理由でみんなに迷惑かけてるね」
彼女は体育座りの膝におでこをつけて顔を埋める。
「わけのわからない世界にきたんだ。普通じゃいられないよ。彼女たちもストレスのはけ口が必要だったんだろう。けれどそれは
「ありがとう。ひとりでもわたしのことを理解してくれていると思うと気が楽になるね」
さて、どうしたものか……。
俺の判断では、両者の言い分は五分五分だ。
三位だから狙われた? 違うだろ。
自分はカーストの上位だというおごり。
下位を見下す態度。
それらが原因だ。
この戦いに善悪はなく、女子特有の縄張り争い。
絶対に決着がつかないやつだ。
あ~~~~めんどくさっ!! って大声で叫びたいよ。
「ひとつ提案がある。鍛冶屋に来ないか?
「いいの? わたしを泊めたら
心配そうな表情で俺の顔を見た。
「なぜ
「人を見てるって言ったでしょ、好きなのわかるし」
「もしかして態度に出てる?」
「ん~、気づいている人は少ないんじゃないかなぁ」
「良かった……。俺と
「そぉ? 悪くないと思うけどっ」
「もう諦めているからいいよ」
彼女はニコッと笑顔になった。
「せっかくのお誘いだもの、お願いしようかなっ」
「ああ、歓迎するよ」
これで
しかし、『男を乗り換える尻軽女』とか言って、さらに彼女を攻撃するだろうけどね。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「第六回 クラス会議を始める。議題は前回に引きつづき食料問題」
議事堂にクラスメイトが集合していた。
いつものように
今回は
「
「わたしこそ、休んでしまい申し訳ありません」
彼女はみんなに向けて頭を下げた。
「チッ」
コイツ凝りてないなぁ。
しかたない今日は
「村の食料をひとりに背負わせるのは重荷だ。なので手伝う人を増やしたり、保存食を蓄えるなど対策を講じようと思う」
「委員長、その前にいいかな?」
俺は立ち上がり
「
「今回の食料問題、なにも解決していないですよね」
「チッ」
またアイツの舌打ちだ。
「問題とは
「誰からですか?」
「
「
「ありません」
「えっ?」
まあ
「仲なおりしたから農業を再開したのではないのか」
「いいえ、
事情を知らなかったクラスメイトたちがザワッとする。
「委員長、この問題を放置すれば
「
俺は顔の前で拳を強く握る。決意をアピールする演技だ。
舞台で出すように声に圧をかける。
「
「
「話が早くて助かる」
蔑むような視線をわざとらしくアイツにむける。
「イラッとするわ~。
なるほど、クラスの認識では、俺は
知ってたけど、ハッキリ言われると傷つくな。
「俺だって言いたくないぜ。まさか高校生にもなってイジメとか、ダサすぎ。中坊かよ」
「ぁあん!?」
眉間にシワをよせ、下から睨みあげるような視線を俺にむける。
その顔はギャルというよりチンピラだ。
「
「バカが忘れたのかよ、
ププッと軽く嘲笑う。
アイツの神経を逆なでするため過剰な演技を心掛ける。
「あまりにも幼稚な理由で忘れてたわぁ~。なあ、具体的に説明してみろよ、
「男に色目使ってんだよ」
「百歩譲って
「ムカつくっつってんの」
「無自覚の
両方の手のひらを上に向けて肩をすくめる。
外人がよくやる『わからない』のボディーランゲージだ。
「テメェ! バカにしてんのか?」
「自分の気持ちに気づかないバカに呆れてるんだよ。まいったな、千の言葉で説明しても絶対理解できないわコイツ」
「テメェ……」
アイツの顔が真っ赤になった。
今にも襲い掛かってきそうで内心ビクビクだが表情には出さない。
演じている最中なら心のコントロールができる。
「委員長、話を戻します。このように
アイツのクチビルがわなわなと震えている。
怒りが頂点に達しているのだろう。
アイツは立ち上がると出口にむかい、歩き出した。
そこへ遠征から帰ってきた
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