第20話
どの部屋にも、なにも置いておらず殺風景。
家具屋の
夕食を終えた俺たちは、床に百人一首を並べて遊んでいた。
テッテレー♪テーレー♪テッテレー♪
レベルアップの音だ。
たぶん
昨夜は俺ひとりで
ちなみに
あらためてスキルを確認する。
レベルアップの特典として【恋愛対象】の指名可能人数が増えた。
今は
経験値を稼ぐには、性行為をおこなうクラスメイトを指名したほうが良い。
ならば
【恋愛対象】に
おや?
どうやらネトラレ中は文字が赤くなる機能が追加されたらしい。
これは便利だな。
「
「エロセンサーに反応があるのか?」
「ああ」
「たぎるぜっ!」
俺たちは固い握手を交わし、鍛冶屋を出る。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
村にはまだ家が少なく、隠れられる場所が少ない。
俺は姿を消すことができるが
もし見つかるようなことがあればコイツを置いてひとりで逃げる所存。
人の気配に注意しながら暗闇を進む。
足音を立てないように、俺たちは裸足で歩く。
幸いにも鍛冶屋の隣が家具屋。
店舗間の距離は十分に広く、隣の会話が聞こえるほどじゃない。
店の間取りはどこも同じなので自室の位置はわかる。
俺たちは少しだけ開いている窓に近づいた。
「ねぇ聞かせてよ。
俺たちは息をひそめ、彼女の声に全神経を集中させる。
事前に
見つかるとヤバイ。裁判なんて受けたくない。
だから顔を出して
「しっ、してないよっ、あっ……」
甘い声を出しているのは
「ふふっ、
彼女が責めているのか?!
「嫉妬深いキミのことだ。すっごいエッチな想像したんだろぉ~」
彼女はとても愉快そうに声を弾ませている。
「……」
「声が小さくて聞こえないぞ~」
「
「へぇ~っ、
「
彼はとても弱々しく切ない声で鳴く。
「キミはほんとうに優しいね。でも、それじゃ物足りないよ」
キャラの濃いヤツと思っていたが、まさか夜のプレイまで濃いとは。
ある意味、予想通りとも言える。
しかし俺の知らない世界だ。
女性に責められるのは、どんな気分なのだろう。
体をゆだね、好きなように
彼女に責められる姿を妄想する――。
裸の彼女が俺のうえにまたがり、熱を帯びた瞳で俺を見下す。
まるでスケートリンクのように俺の体を細い指が滑る。
「あっ……」
俺が声をあげるとフフッと笑う。
「ふふっ、こっちまでカチカチじゃないか」
宝箱を見つけたかのように、反応した場所を愛おしく指で刺激する。
……おや? 俺の妄想と偶然リンクしているみたいだな。
「さぁ入れるよ。思いっきり突き上げて。
「ああっ!」
ベッドの
家具屋の特権だな、自分のために最高のベッドを作ったのだろう。
「いい、いいよぉ
彼の息遣いが荒い。
まるで長距離を全力で走っているようだ。
死んでしまわないか心配になるほどに。
「
「ひっ! ひっ! ひっ!」
おいおい、ソイツ死ぬぞ!
「きたきたきた!
「うっ!!」
俺のネトラレ気配が薄くならない。
いつもならここで終わるはずなのに。
「
彼女のほうがタフなのか……。
俺は
足音を立てないよう注意しながら俺たちは帰ったのだった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
「第四回 クラス会議を始める」
議事堂にクラスメイトが集合した。
いつものように
「議題は、労働にたいする報酬。まだこの村には通貨がなく、報酬を支払う仕組みが確立されてない。物々交換でも良いのだが物流に偏りがある現状ではうまくいくとは思えない」
クラスメイトは彼女の発言にうなづいた。
少なからず、みんなも気にしていたらしい。
「問題点その一。通貨を導入したとしても、その通貨を使う場所が限られている。問題点その二。通貨を稼ぐ手段のない人がいる。問題点その三。相場を決めるのが困難。わたしが懸念しているのは以上の三点だ」
不満そうな顔の
「そもそも報酬は必要なのだろうか」
「それをキミがいうのか。危険を冒して狩りをしているのだから危険手当がついてもおかしくない。まさかクラスのために
「犠牲とは思っていないよ。けれど、報酬のために狩りをする気はない」
「するとキミは、村のなかでぬくぬくと仕事している人と、狩りに出る人の苦労は同じだというのか。その考えは狩猟部隊の総意なのか」
「いや、俺の意見だ」
「苦労の報われない社会は間違えている。かりに、狩猟部隊のなかで不平等を感じている人がいても、リーダーがその態度ではクチには出しづらいだろう。不満は溜まっていくものだ」
さすが
やりたいこととやれることが一致している人が少ないんだ。
『俺ができるのだからオマエもできるだろ』みたいな、説明しづらいけどそんな感じだ。
ソフトな人格だし口調も優しいので責められている気分にはならないけれど、気づかないうちに精神的に追い詰められている感覚になる。
「この問題は根が深く、簡単に対処できるとは思っていない。わたしが見て労働に偏りが出ていると感じたのは狩猟部隊と食堂と服屋だ。食堂では食器を洗う作業を
思い当たるふしのある女子たちがバツの悪そうな表情で下をむいている。
「念のため言っておくけど二人から苦情が出たわけではない。わたしが観察し、そう判断した」
基本的には独裁者なんだけど、しっかり見てるなぁ。
「委員長ありがとう」
服屋の
「ウチ、お店がもてて、嬉しくって、舞い上がっちゃった。みんなが来てくれたの凄く嬉しかったの。委員長のいうとおり疲れてるけど、嫌な疲れじゃないよ。だからね、ウチ、もう少し頑張りたいんだ」
とても晴れやかな笑顔だ。
俺は感じたことはないが、人から求められる喜びってアレなんだろうか。
本人にしかわからないのかもしれない。
正直に言えばうらやましい。
彼女こそ、やりたいこととやれることが一致した人なのだ。
「そうか。余計な発言だったな」
「ちがうって! 嬉しいんだってば! 人から気を使ってもらうなんて初めてだし……」
派手な見た目なのに、あんがいかわいい所があるんだな。
「ならばお節介させてもらおう。
「作れるよ。けど、材料が森の中だね」
「なら俺たちが取ってこよう」
そ~いう所だぞ。
即決し、困っている人を見捨てない。主人公ムーブとしては正解だ。
けどな、オマエはいいかもしれないが、他の狩猟部隊のメンバーがどう考えているか確認しろよ。
「いや、口頭で説明するのはむずかしいからボクを狩りに同行させて欲しい」
「もちろんだとも」
「二人ともあざ。ウチ、うれぴ」
二人と言いながら視線は
もしかすると
「
「さすが委員長、よく見てるね、正直言うとちょっと辛いんだ。
「作れるのかね!?」
「俺には作れないよ、ごめんね~」
あいかわらす軽いヤツ。
「そうか、残念だ」
彼女は見てわかるほどに落胆する。
「クックック! そろそろ
暑苦しい
「えっ……」
真面目な彼女はアイツが苦手らしい。
「
「あ、そう。なら作ってくれるか」
「ザンネン! ステンレスが必要でござる」
言うだけ言って座りやがった。
「なんだぬか喜びか。この世界の技術力ではステンレスは無理だな」
「作れるけど」
「え?」
スンとした顔の
「俺の加護は錬金術。卑金属を作ることができるらしいぞ」
「らしいぞって、オマエの加護だろ?」
「俺は化学の点数が低いんだよ。ステンレスは鉄とクロムで作れるらしいが、クロムってなんだ?」
「さぁ?」
たしかに、歴史上の錬金術師は卑金属から貴金属を作ろうとしてた。
現代科学の祖と言っても過言じゃない。
脳筋の
「クロムも金属だ。わたしも実物はみたことないけれど。どこにあるのかわかるか?」
「わからん」
なら、この世界にクロムは存在しないのか?
「ふむ……」
「あっのぉ~っ」と、そぉ~っと手をあげた人がいる。
茶道部の
二人は教室で薄い本を見ていた。
こちらは隠れオタクなので、濃い性格はしていない。
男子を見ながら、たまに――うひっ――と奇声を発するくらいだ。
「わたしの加護は採掘だよぉ。クロムのある場所もだいたいわかるよぉ」
いつも不安そうにビクビクしているのはナゼだろう。
「なにっ?!」
「でもぉかな~り遠い感じぃ。ひと月くらい歩くかもぉ」
「それは、厳しいな」
「
「わかるよぉ~」
「石灰石があればコンクリートが使えるから建築の幅が広がるよ」
「それはぜひ手に入れたい」
「報酬の件はみんなも考えておいてくれ。早急に結論を出す話ではないが、とても重要だ。疲労回復薬は早急に作成してもらおう。狩猟部隊と
みんな了承したようでうなづいた。
「そのあとで石灰石の入手だな。工程は狩猟部隊と相談して決めてくれ」
「えっ、わたしも行かないとダメかなぁ?」
「キミにしか場所はわからないのだろう?」
「そうだけどぉ」
「俺が必ず守るよ」と、
「ふひっ」
「俺も手伝おう」と、
「うひっ。わ、わかったよぅ」
あの二人の薄い本を作ったのが、たぶん
被写体を間近で観察できるんだ本望だろ。
「よろしく頼む。今回の議題は以上だ」
「ちょっといいかな」
「意義でもあるのか」
「いや、私的な連絡だね。
「は?」
「委員長はニブイね。
「なんだとっ?!」
女子たちが黄色い声をあげ。
「言い訳を作って彼の家に通うのが面倒になってね。もう公表しちゃおうって事になった」
たぶん
「高校生なのに同棲するだと?」
「ダメだと?」
食い気味に反論した。
「いや、わたしの一存では決められない問題だ」
「失礼だな、問題じゃない。愛する者どうしの自然な帰結だね」
対照的な二人は無言で視線を交わす。
「これは村の問題だ。決をとります。二人の同棲に反対の人、挙手を」
手をあげる人はいなかった。
「みんな祝福してくれるのね、ありがとお~」
彼らの発表を期に、クラスの雰囲気が微妙に変化する。
異性にたいするアプローチが加速したのだ。
しかし彼らほどオープンではない。
水面下でクラスメイトの情事が活発になっていく――。
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