第18話
議事堂ではクラス会議が開催されている。
進行役はいつものように
クラスメイトは椅子に座り、友人同士で固まっている。
「議題は今後の仕事について。働かざる者、食うべからず。勤労の義務はこの村でも有効。趣味や加護を生かし、村のために力を貸してくれる人から優先的に店を作り、そこを住居にしてもらう」
「はいは~い、俺、鍛冶屋やるよ」
コイツは鍛冶屋がやりたいんじゃなくて自宅が欲しいのだろう。
議事堂で雑魚寝するのは気をつかうからな。気持ちはわかる。
俺も寝床が欲しいが、みんなに明かせる加護じゃない……。ちくしょう!
「わたくしの加護は癒しです。病院を経営しましょう」
怪我や病気にかかる人はこれから増えるから、村には必須の施設だ。
「わたしは料理の加護だから食堂をやりたいな」
料理研究部の
今も食事を用意しているのは彼女だ。
加護の力なら、全員分の食事を用意するのも苦じゃないらしい。
「ボクの加護は工芸だから家具屋かなぁ」
地学部の
議事堂の椅子を用意したのは彼だ。
自宅が増えてくればさらに忙しくなるはずだ。
「ウチの夢はアパレルショップなんだけど、まさかこんな場所で店を開けるなんてウケるー」
被服部の
彼女は糸から布や服が作れる。
今は支給された騎士服で過ごしているが、これからは彼女が作る服が増えてくるだろう。
「わたしの加護は農業なの。お店じゃないから後回しかなぁ~」
バトミントン部の
「悪いね。お店を優先させてくれ」と、
「はぁ~い」
「チッ」
誰かが舌打ちした。それに女子たちがイラッとした表情になる。
仲良くしてくれよ。
「わての加護は紙使い。お店開くほどでもないですなぁ」
「ちなみに、どんな紙が作れるんだ」
「ぎょうさんありますえ。トイレットペーパー、ティッシュペーパー、キッチンペーパー、紙袋、ノートや段ボールなんかも作れますえ」
「それは生活必需品じゃないか。倉庫でも構わないから店を開いてくれ」
「ええどすえ」
「トイレットペーパーをトイレに補充する係も務めてくれると嬉しい」
「かましまへんよ」
「俺の加護は革使い、靴が作れるぜ」
ゴルフ部の
コイツは下ネタ大好きのエロ大臣だ。
俺も彼からエロ本を借りたことがある。
審美眼は確かで、男子からはエロ【ソムリエ】と呼ばれ人気があるのだ。
「ボクの加護は薬剤師なんだけど、
テニス部の
すすんで前に出るタイプではないので、クラス会議ではあまり発言しない。
どこか大人びた雰囲気のするヤツだが、背伸びをしているわけではなく、とても自然体だ。
考えかたが達観しているので【サトリ】と脳内で呼んでいる。
ちなみに、逃亡中に兵士たちを眠らせた睡眠薬は彼が作ったらしい。
「病院と薬局はもちつもたれつの関係ですわ。それに、わたくしは狩りに同行して怪我の治療なども手伝う予定です」
「なるほど、
「助かるよ」
「それとね、ボクは避妊薬が作れるんだ。娯楽のない村だからソッチで気分を紛らわす人が増えると思うんだよね」
「
けれど彼はふざけてなどいない、真面目な表情だった。
「委員長、まずは話を聞いてよ。この村で子供が生まれたらどうする気だい? 育てるのかな? 性欲は人間の三大欲求だよ、禁止にしても必ず行為に及ぶ人が出る。それなら避妊薬を配布したほうが村のためだと思うんだ」
「そ、それは……」
彼女は顔を真っ赤にしている。
あれは怒りではなく
俺も彼の言い分は正しいと思う。
性行為を推奨しているのではない。ちゃんと避妊しろと発言しているだけだ。
みんなに見えるようにもつ。
「覚えておいてね、この緑色の薬が避妊薬だよ。効果はひと晩つづく。ボクはプライベートを守ると誓うよ。誰に配ったか絶対に口外しない。もし不安なら
その声はとても丁寧で優しかった。
彼なりの心遣いかもしれない。
たしかに避妊薬は必要だ。
とくに
俺の経験値は、キミたちの貢献にかかっているのだよ。
「委員長、避妊薬を配布してもいいかな?」
「わたしの一存では決められない。決をとります。配布しても良いと思う人、挙手」
クラスの人数は三十五人。内訳は男子が十七、女子が十八。
男子はほとんど手をあげた。
二人ともバカだから理解していないのだろう。
もちろん俺は手を上げた。欲望には逆らえないからな。
使う相手はいないけど……。
女子もちらほら手を上げた。たぶんクラスに彼氏がいる人だな。
顔を覚えておこう。
予想通り派手系女子三人組が元気よく手をあげている。
目立っていたのは
顔を真っ赤にしながら手をあげた。
彼女は性欲ではなく村の未来を考えての挙手なのだろう。
真面目だなぁ。
「はい。可決しました。
「任せてください」
「お店をもちたい人は他にいませんか」
「いないようですね。それではお店をもたずに働く人について決める。まずは村造りだが、引きつづき
「はい」と、
「お任せあれ」と、
「銭湯の運営は
この件はすでにクラスメイトたちも了承ずみ。
他に代われる人がいないので必然だ。
前科があるのでしかたない。
けれど、二度としないと誓ったのだから許してやろうと
将来的には湯沸かし器を作り、交代することで渋々了承したらしい。
「はい」と、
「誓いは守ります」と、
たぶん大丈夫だろう。
「
「引き受けます」
ここで即答できるのは、やはりイケメン主人公だな。
俺なら速攻で断る。リーダーなんてメンドクサイだけだろ。
「ありがとう。反対意見のある人、挙手してください。――ないですね。ではついでに名前も決めよう。狩猟部隊でどうかしら」
「いいと思うよ」
「では狩猟部隊に加わってくれる人いませんか」
「もちろん参加する」
戦いたくてウズウズしている表情だ。
「ボクもいくよ」
弓道部の
獲物を射るのがクセになっているらしい。
動かないマトを射るよりも動いている獲物のほうが楽しいのかもしれない。
それに彼女は
実らぬ恋か。可哀そうに……。
「わたしは戦いたくないけど、他の仕事は無理っぽいから参加で」
陸上部だし、女子だし、胸肉は戦闘にはむいていない。
「俺は戦闘系の加護じゃないが、狩りくらいしか役に立たないだろう」
村のなかで力仕事をしてもいいと思うのだが……。
「あの、わたしも参加していいかな?」
クラスメイトがざわっとする。
学校一の美少女。
そう、学校の【アイドル】!!!
新体操部のエースで雑誌に何度も特集記事が掲載されている。
誰からも好かれる明るい性格。
男子から告白された噂はよく聞くが、交際している噂はいっさい聞かない。
そのせいか
――虫も殺せないような彼女がなぜだ?
ちなみに俺が片思いしている相手なのだ。
叶わぬ恋だと知っていても諦めきれないでいる。
「偏見で悪いのだけど、
俺も
箸よりも重いものをもったことがないんじゃないか?
「
「その心意気は立派だ。けどね、適材適所ってあるよね」
「怖くて言い出せなかったんですが、わたしの加護は姫騎士なんです」
それ! ダメなやつ!!
俺は健康的な男子高校生だ。
エロの知識は普通にあると思っている。
姫騎士といえばモンスターに捕まり、
有名な台詞に『くっころ』がある。
それは『くっ……殺せ』の略なのだ。
世界的運命が、その台詞を彼女に言わせたいのか?
「姫騎士キターーー!!!」
うるさいぞ!
たぶんコイツも同じことを考えているはずだ。
彼女を見ながら鼻の穴を膨らませている。
「決心は固いようだね。職業の選択は権利だ、わたしに止める権限はない。
「そうだね。森に入る前に確認しよう」
試験を見るためにみんな議事堂の外に出た。
二人には木剣と盾が渡される。
「
「おう」
守るなら女子だろ。だからオマエらにはホモ疑惑が浮上するんだよ。
「
「はいっ」
「えいっ!」
ポコン。
とても軽い音がした。
「はっ!」
ポコン。
必死になって木剣を振っている。
しかしダメージと呼べるほどの打撃にはなっていない。
観客から失笑が漏れた。
剣を振るたびに、彼女の美しいストレートのミドルヘアがサラリと揺れた。
美少女の真剣な表情が俺の視線を釘付けにする。
新体操にはクラブ(こん棒)を扱う競技がある。
彼女の躍動する姿は、戦闘というよりは、華やかな競技のいち種目にしか見えない。
「ストップ、ストップ。やっぱり
「まだ加護の力を出していません」
「わかった。次は加護の力を使ってくれ」
「はい。――行きます、ブーストッ!」
彼女の動きが突然早くなる。
先ほどとはまるで別人だ。
剣先が見えないほどの神速剣。
打撃音を聞いているだけで身がすくむ。
剣圧で
しかし、彼の加護は護衛なので倒れることはない。
衝撃波で周囲の土が舞い上がる。
「ちょっ――」
勢いに飲まれ、
「ディヴァイン、ブローーーッ!!!」
彼女は叫び声とともに、必殺の一撃を放つ。
目に見えない衝撃波は斜め上に打ち出され、彼の遥か遠く後方にある堤防を削り取ったのだ。
観客たちは信じられない光景を目撃し、クチをポカンと開けている。
ライバルの出現が嬉しいのだろうか。
不敵な笑みを浮かべている。
「バーストアタッキターーーーーー!!!」
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