第11話
そのせいで昼夜が逆転したのだ。
とっぷりと日が暮れているのに眼が冴えている。
羊を数えるのもあきた。
スマホとネットさえあれば、名作映画をオールで観ていられるのに。
暇をつぶせるものが何もない。
せめてエロ本でもあれば……。
――俺にはネトラレがあるじゃないか!
加護にめをやると【経験値】が増加しているのに気づいてしまった。
「ウソだろ! 宰相のヤツ。気を失っている委員長にイタズラしてるのか! ED野郎め! ナイスタイミング!」
あ……
アイツ、あきらめ悪そうだったし。
とにかく確認しよう。
俺は部屋を出て、ネトラレ気配のするほうへ移動する。
夜に出歩いているのがバレないように
迎賓館とは別の建物にある医務室で
なので屋外へ出るのはおかしくない。
しかし方向が違う。
まさか移送された? 宰相の部屋か?
アイツめ、うらやま許せん!!
星明りの下を、怒りをたぎらせながらズンズンと進む。
遠くに見える倉庫は
ネトラレ気配が香ばしい。
俺は足音を立てないよう注意しつつ武器庫の裏手にまわる。
姿を消しているので見つかるはずないのだが、やはり緊張する。
「んっ、んっ、んっ」
そこにいたのは
彼女を【恋愛対象】に指名したのを失念していた。
アイツらも委員長救出組。
俺といっしょで眠れなかったのかもしれな――。
――
彼は武器庫の壁に背中をつけて立っている。
スラックスとパンツはひざの下まで降りていた。
彼女はひざまずき、彼のアレを〇〇〇〇〇している。
ウエーブのかかったロングヘアがユラユラと揺れていた。
星明りの薄暗さでも彼の頬が赤く色づいているのが見て取れる。
かなり興奮しているのだろう。
目尻がとろけそうなほど下がっている。
彼のあんなだらしない表情。
見たことのあるのは、俺と頭をゆらしている彼女だけだろう。
しかし彼女は無感情だった。
ときおり上目遣いになり、彼と視線があうと、にこりと笑う。
しかし興奮しているようには見えない。
そんな二人よりも俺のほうが興奮していた。
あの!!! 出水総合病院の超絶ご令嬢が信じられないことをしている。
無菌室で大切に育てられたご令嬢が!
ガードマンに護衛されているご令嬢が!
グリンピースよりも大きなものをクチに入れたことのないご令嬢が?
あんなことを……。
信じられない。夢でも見ているかのようだ。
彼女は吹奏楽部のフルート奏者。
いつもは銀色に光り輝く木管楽器にそえられるクチビルが。
あんなことを……。
その背徳的な光景から目が離せない。
俺の背中には稲妻のような刺激がずっと駆けめぐっている。
【経験値】の増加速度は今までで最速を叩き出した。
それだけ俺が興奮しているという証拠だ。
ニュースサイトで読んだことがある。破壊の美学はすばらしいと。
純白のキャンバスに泥をぶちまけるような。
無垢な花を手折るような。
新雪に踏み入るような。
端的に言えば汚れだ。
彼女は絶対にあんなことをしないと思っていた。
俺は固定概念を破壊される感覚に酔っているのかもしれない。
「
ビクッ!!!!!!!
自分の名前が呼ばれ、心臓が飛び出そうになる。
「もちろんだよ。最初は拒んでいたけど最後は頼みを聞いてくれた」
俺への依頼は
「ならわたくしが死ぬことはないと解釈していいのかしら」
「過信は禁物だよ。効果範囲や発動条件なんかは不明だから」
「わかっているわ。わたくしはもとの世界に帰らなければいけない身分なのです。言われなくても注意します」
彼は
しかし、ピシッと払いのけられてしまう。
「頭を触られるのは嫌いと言いましたわよね」
「あ、ごめん」
意味がワカラナイ。
ヘアスタイルが崩れるのが嫌なのか?
それとも、彼女なりのプライドなのか?
「
「ダメですよ。コンドームをもっていないでしょ」
まるで諭すような言葉遣いだ。
「この世界にあるわけないだろ」
「なら、もとの世界に帰るまでおあずけですわ」
「くそっ! 必ず帰る方法を見つけてやるからな」
不純な動機だが、その気持ちはわかるぞ。
「こうやって相手をして差し上げるのですから我慢なさい」
「うっ!」
彼女のテクニックによって彼は絶頂をむかえた。
テッテレー♪テーレー♪テッテレー♪
同じタイミングで俺のレベルも上がった。
あまりに対照的な二人に、俺の脳がついていけない。
アイツら交際してるのか?
彼女はまるで作業でもしたみたいだ。
ネトラレ気配が冷めていく。
もうこれ以上はなにもおきそうにない。
俺はバレないように、静かに立ち去る。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
翌日、俺は自室で休憩している。
部屋には、ヒマつぶしになるようなものはない。
しかたなく椅子に座りぼ~っと外を眺めていた。
昨夜、レベルアップしたのを思い出し、加護を確認する。
どうやら新しいスキルを獲得したみたいだ。
【メンタルケア】
傷心している者に効果を発揮する
会話をつづけることで辛い責め苦の記憶が希薄になる
責め苦の記憶が過酷なほど好感度が上昇する
なお、対象者と肉体関係をもつとすべての効果が逆転する
――酷いスキルだなぁ!!
弱った心につけこめってことだろ。
そして好感度は上がるけど触るなと。
生殺しじゃないか。
だが考えようによっては好都合のスキルでもある。
けれど好かれたいとは思っていない。
好感度がどの程度の効果なのか未知の領域だが試してみてもいいだろう。
彼女の見舞いのため、俺は医務室にいくことにした。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
医務室のドアをノックする。
「はい」
聞き覚えのある声だがドア越しなので判別がむずかしい。
俺はドアを開け、室内に入る。
「あらっ
昨夜の情事がフラッシュバックする。
彼女の可憐なクチビルが
「顔が真っ赤ですけど、もしかして風邪をひいたのですか?」
おでこの熱を測る気なのだろう。
「大丈夫! 走ってきたからちょっと熱いんだ」
反射的に一歩下がってしまった。
「そうですか?」
不思議そうに小首をかしげている。
今触られたら発情してしまう。
頭のなかで必死に素数を言いつづけた。
「委員長の具合はどう? 目は覚ました?」
「眠ったままよ」
「お見舞いしていいかな」
「どうぞ」
見舞いにきてくれたのが嬉しいのか彼女は優しく微笑んだ。
八台のベッドが白いカーテンで仕切られていた。
どうやら
いちばん奥の窓際に彼女は寝ている。
「わたくしの癒しは外傷や風邪などを治すことができます。けれど
「もしかすると心に傷を受けたんじゃないかな。俺たちが到着したとき、酷い状態だったろ」
「そうかもしれないわね」
「ありがとう」
「少し席をはずすわね。戻ってくるまで見ていてくださる?」
「いいよ」
カーテン越しに日の光が差し込んでいる。
彼女の寝顔はとても穏やかで、前日の出来事がウソのようだ。
加護の力によって治癒したので肌に傷は残っていない。
「委員長、聞こえるか、
彼女が目を覚ます気配は感じられない。
ふと思いついた。
洞窟では俺が彼女に触れたあとに再生が始まった。
もしかするとメンタルケアも。
おでこに手を当てて熱を測る素振りをする。
「おい、何をしている」
いきなり背後から声をかけられた。
驚きのあまり心臓が止まりそうになる。
振り返ると
まだ学生服を着ている。
クラスメイト全員が騎士服に着替えているので彼だけ異質だ。
俺たちのほうがコスプレ感が強いのに慣れは恐ろしいな。
「見舞いだが?」
「触る必要はないだろ」
「熱を測ってたんだよ」
「ウソくさっ」
ウソだもの。
「そっちはなんの用?」
「たまたま通りかかっただけだ」
「ウソくさっ」
「なんだとっ!!」
胸ぐらを掴まれて椅子から無理矢理立たされた。
「委員長が心配で見舞いにきたんだろ」
服のシワをなおし、また椅子に座る。
コイツらはたぶん交際していた。
けれど彼女は宰相にネトラレたのだ。
それなのに未練がましく様子を見にきている。
「委員長が連れ去られたとき、オマエどこにいた?」
「関係ないだろ」
「俺たちが助けに向かう相談をしてたとき、オマエどこにいた?」
「うるさいぞ」
「自分の手で助けたかったか?」
「黙れ!!」
俺はその場に倒れる。
野蛮人はすぐ暴力を振るうから嫌いだ。
体の痛みを我慢しつつ、体をおこす。
俺はゴブリンの巣穴で
コイツの意志を確かめるという嫌な役目だ。
探す手間が省けたと考えれば、体の痛みぐらいどうということはない。
「俺たちはこの国から出ようと考えている。もちろん委員長も連れていく。残しておくと殺されるからな。オマエどうする?」
返事がない。
俺は立ち上がると
コイツは俺より背が高い。
鼻が当たるほど顔を近づけ、コイツの目を見上げた。
「もう一度だけ聞く。返事によってはオマエを置いていく。俺たちについてくるか。それともこの国に残るか。さあ、選べ」
「テメエらウゼエんだよ」
俺は
声はかけた。
拒絶したのはアイツだ。
あとは自分の力で生きていけ。
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