第3話
まさか
彼女の
心を落ち着かせよう。股間の熱を冷まさないとダンスホールに戻れない。
平常心を保ちつつゆっくりと歩く。
ダンスホールに到着すると、話し合いはつづいていた。
入口で見張りをしている
「長かったじゃねーか、クソか?」
「使い慣れてないせいか、なかなか出なくてな」
「わかる~。汚いのはマジでカンベンしてほしいぜ」
【経験値】の増加はつづいている。
それは
妄想を振りほどくように、俺は頭を強く振る。
「どうした?」
「いや、なんでもない」
プライベートな秘密は守る。デリカシーくらい俺にだってあるさ。
「――ということで加護については極力秘密にする方向で」
ダンスホールの中心に立つ
どうやら、この国の連中に利用されないよう、加護は秘密にするらしい。
他には、宰相のウェニスは信用できないというのがクラスメイトの総意となったようだ。
「最悪、この国から脱出することも視野に入れたほうがいいと思う」
「その意見には賛成だが、俺たちはこの国や世界について、知らないことが多すぎる」
「そうだな、情報は力とも言うし。――どんな情報が必要だと思う?」
「世界地図とまでは言わないが近隣諸国の位置までは把握したい。それと歴史。あとは世界情勢だな。近隣諸国との力関係も知りたい。できれば生き物、植物など、地球との違いを把握しておきたい」
「クックック、その役目、
不敵な笑いで登場したのは
【歴女】というカテゴリーに属する腐女子だ。
伝説に登場する英雄たちをカップリングして妄想するのが好きらしい。
俺には理解するのがむずかしいジャンルだ。
だが、彼女の知識はたしかに深い。
歴史に関して右に出る者はいないだろう。
「
「いかにも! こちらの世界の英雄たちには、どんな逸話があるのか。もうね、鼻血が出そうだよ」
息が荒く、目は血走っていた。
彼女の個性は強烈で男子からの人気はとても低い。
しかし、個性と能力は別問題。彼女の知識には敬意を表わさざるを得ない。
「そ、そうなんだ」
かかわり合いたくないという感情が
「この話し合いがなくても、
「お任せしたいけど女子がひとりで行動するには危険すぎる。首輪の件もあるし……」
クラスメイトが首をかたむけう~んと思案に暮れていると。
「ならボクがいっしょに行動するよ」
手を挙げたのは
クラスでは目立たない存在だが成績は良い。
とてもおとなしく小柄で
その見た目のせいか【モヤシ】を思い浮かべてしまう。
女性を守る姿というのは想像しがたい。
もしかするとケンカしたら彼よりも
「
おいおい、女子の部活は覚えているのに男子の部活は覚えていないのかよ。
と、言いたいが、俺も知らない。
「ボクは地学部だよ。地理に関する情報から地図くらいなら作れると思う」
「適任なんだが……」
さすがに面と向かって非力だとは、
誰か他に名乗り出ないか期待しているような目で視線を泳がせている。
「なら俺が同行しよう。
剣道部の
メガネの真ん中を中指で押してズレを調節する仕草が嫌味っぽくて俺は苦手だ。
自信過剰といいたいが彼には断言できるだけの実力がある。
「わたしもついてっていいかな。料理研究部だし、こちらの世界の料理にも興味あるし、食べられる食材とか知りたいし」
彼女は、クラスの母親的存在だ。
友達の悩みに耳を傾け、適切なアドバイスを与え。
困っている者がいれば、迷わず手を差し伸べ。
そして、つねに笑顔を絶やさず、クラスの雰囲気を明るく保つ。
まちがえて【ママ】と呼んでしまいそうなほど母性を感じさせる。
「そうだな、食についての情報も必要だ」
見つめ合う二人は幼馴染らしい。
俺の推測では彼女の片思いだろう。
ヤツにはもったいないくらいの純粋な女の子だ。
彼女の友人は恋心を知っているらしく、微笑ましく二人の様子を見守っている。
からかうほど子供じみたクラスメイトがいないのは幸いだ。
「
アニメ部の
彼はアニメ好きを隠すことなく、堂々と【アニオタ】を名乗っている。
一年の文化祭で彼はアニメキャラのコスプレをして登校したのだ。
別のクラスだった俺は、出し物の衣装だと思っていた。
しかし、あとから聞いた話だとクラスの出し物とはまったく関係なかったらしい。
言葉遣いや行動が他の人とは一線を画していて、正直なところうっとうしく感じている。
長い髪をうしろで束ねているファッションも同様にうっとうしい。
人の話を聞かないのも、うっとうしさを際立たせている。
嫌な面ばかりが目立つが悪いヤツではない。
基本的にかかわらなければ無害だからだ。
「じゃまするんじゃないぞ」
「ひどいっ!
あきらめを含んだ
「単独行動は危険だ。五人はつねにいっしょに行動してくれ」
彼の言葉に五人はうなづいた。
「危険と判断したら俺が必ず三人を逃がす」
「任せた」
――三人? ひとり足りないぞ。
未知の世界に足を踏み入れ、不安を抱えているはずだ。
それでも、クラスメイトを守るといえる。
なぜコイツらは
誰から指示されるでもなく、自然とみんなの中心に立ち、意見をまとめている。
世界を救う英雄は、きっと彼らなんだろうな。
テッテレー♪テーレー♪テッテレー♪
突然、頭のなかにファンファーレが鳴り響いた。
「うわっ!」
「どうした?」
不思議そうな顔で見てくる。
「いや、なんでもない」
レベル:2
やはりレベルアップしたときの音だ。
【経験値】はまだ増加をつづけている。
どんだけタフなんだアイツら……。
「今日の話し合いはこのくらいにしよう。くれぐれもひとりでは行動しないでくれ。それと部屋に戻ったら必ず鍵をかけるように。合鍵をもっている可能性もある。寝る前はドアの前にテーブルなどを移動して開かないようにするんだ」
「わかった」
「オーケー」
「うん」
クラスメイトは元気よく返事をすると部屋へと戻っていった。
△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼△▼
壮麗さと格式が共存する大食堂。
二列の大きな長方形のテーブルが堂々と鎮座し、周囲には背もたれの高い椅子が並んでいる。
テーブルのうえには、金や銀で作られた食器やカトラリーが並んでいた。
夕食は豪華なコース料理らしい。
俺たちをむりやり呼び出したのだから当然のもてなしだ。
そわそわしながらクラスメイトが部屋に入る。
それは、コース料理を食べた経験のある人は少数だからだ。
マナーなんてものは、もちろん俺だって知らない。
なんとなく窓側が男子、廊下側が女子の席になる。
さらにクラスカーストの高い人が上座、低い人が下座にすわった。
そんなルールはない。なんとなくだ。
俺と
とくに席の位置は意識していない。空いていたから座ったのだ。
テーブルのうえに
「メイドさんキター!」
遠くで
ブレないヤツだ。
料理に目を奪われるが油断は禁物。俺たちは敵陣のなかにいるのだ。
毒が仕込まれている可能性だって考えられる。
鑑定スキルをもっている
彼が豪快に食べ始めたのを確認してからクラスメイトは手をつけたのだ。
「
彼の隣に座る
「あ」
――毒なのか?
クラスメイトが息をのむ。
「あ?」
彼の反応を見た
「どうして誰も食べ始めないのかなと。スマン、いまから調べるわ」
「ぅおいっ!」
「ハッハッハ、大丈夫だ、問題ない、今度から気をつける」
クラスメイトが安堵の溜息を吐いた。
脳筋が気の利いた対応なんてできるわけないと誰もが思っただろう。
俺もだ。
まあウソだな。
長時間のプレイで腰を痛めたのだろう。
おかげでレベルアップしたのだ。感謝しかないぞ。
テーブルマナーなど知らないと言わんばかりに、
彼の行動に誰もフォローを入れない。
冷たいかもしれないが会議に集合しなかったアイツが悪いのだ。
同情する気にはなれない。
宮廷料理なのだろう。盛りつけはとても豪華。
しかし、見た目の華やかさとは裏腹に、味は俺の期待を大きく裏切った。
すべてにおいて味つけは薄く、上品さというよりは調味料の不足を感じさせる。
俺だけでなくクラスメイトも同様に、期待はずれの感情が色濃く描かれていた。
「マズイな」
隣に座る
野菜のソテーをフォークでぷすぷす刺して持て余している。
「正直言ってインスタント食品のほうがマシだな」
「これ、最上級のもてなしだろ」
「だろうな」
「平民はどんなもん食ってんだ?」
「想像したくない。もし、この国から脱出すると、食事のレベルは確実に落ちるだろうな」
「マジか……」
「まだ前菜だぜ、メインディッシュに期待しよう」
俺たちの期待はみごとに裏切られた――。
食事の味よりも、俺が気になるのは給仕をしている人たちだ。
メイドが主人公の映画を観たことがある。
来客をもてなすのはパーラーメイドと呼ばれる美しい娘。
男子たちは、目の前の魅力的なメイドに見とれ、鼻の下を伸ばしている。
一方、女子たちは、優雅な執事に接客されて歓声を上げている。
みんなの反応は、彼らが目の前の光景にどれだけ魅了されているかを物語っていた。
服装についていろいろとウンチクを話しているが誰も聞いていない。
彼らのようすを見ていた
彼らの心境は痛いほどわかる。
ハニートラップで学級崩壊するのが目に見えているのだ。
俺だって彼女たちに誘惑されれば、やすやすと陥落するだろう。
仕方ないじゃないか、性欲をもて余す高校二年生なのだから。
――さあこい! 相手になってやる!
その夜、いくら待ってもメイドが部屋にくることはなかった。
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翌日の朝食は最悪だった。
もちろん食事の味も最悪だったが、それよりも
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