第8話 滝川(スカータ・オシュ)を臨む橋

今夜の宿代と夜、酒場での仕事で得られる対価、今日これからの捜索が徒労で終わる可能性、これらを天秤にかけた結果の値段。


ビアトロは革袋から幾ばくかの銀貨を取り出すが、リオグルは手でそれを静止する。


「あんたはまず橋を渡りな、俺は遠慮しておく。兵隊に顔を見られたくないからな。

対岸にわたってすぐ、噴水がある広場がある、そこが待ち合わせ場所だ。

そいつは向こうで会ってからもらおう」


「……分かりました。そこで会いましょう」


そう言うとビアトロはリオグルから待ち合わせる場所を聞き出すと彼と別れ、スカータ・オシュにかかる橋に向かう。


「この出会いもシムリー神の導きか……」


そのつぶやきを残しビアトロは裏路地を出る。


リオグルが言う橋はスカータ・マレ・スタ北の中心広場を抜けた先にあった。


ビアトロはこの街に滞在するきっかけとなった闘技場を横目に見ながら喧騒の中、足早に橋に向かう。


橋は石造りの立派なもの、海からの風を受けて対岸まで伸びている。


そしてリオグルの言っていた通り橋のたもとには詰所と思われる建物があり、近くに王国の兵士達が立って往来に目を光らせている。


とはいえ、なにもなければ人々の往来を制限するつもりはないらしく、特に呼び止められることもなくビアトロは橋を渡り始める。


石だたみの橋の上を、荷を背負うろばをひいて歩く商人とおぼしき人物、冒険者の一団。


川に目を向けると何艘かの手こぎ舟が対岸をいったり来たりしている。


反対側に目を向ければ中州には領主、フォルト・ガシオンの屋敷が見え、その先には港が見える。


幾本もの長い帆柱が立つ外洋船、川にかかる橋をくぐるため帆のない河川船。何隻もの商船や軍船が入り乱れて停泊する港のさらに先、そこには二つの大陸に挟まれた水平線が見える。


昔の人々はあの先には何もなく、滝になっていると信じていたらしく、故にこの海を滝海スカータ・マレと呼ぶようになったという。

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