第6話 人混みに紛れるビアトロ

「追えぇっ!」


男たちの怒号を背にビアトロは表街に飛び出すと、驚く往来の中をしばし駆け、近くの脇道に駆け込むと急いで外套を翻し、白装束の面を表にして再び纏う。


頭の帽子の布も翻し、普段の姿になると何食わぬ顔で往来の中に紛れる。


「やつはどこに行った!」


「あまり騒ぐと兵士に見つかるぞ」


「ちっ!」


暗がりで顔までは分からなかったせいか、男たちはビアトロがすぐ近くを通っても気づく素振りはない。


しばし歩いた後、周囲を見渡し、誰もいないことを確認したビアトロはそこでようやく一息をつく。


あるかどうかもわからない手がかりを求め、いつ悪漢に襲われるかわからない緊張感の中、まだ右も左も分からない街を手探りでさまよう。


こうなると森や遺跡探索とそうは変わらない。


人目につかないところで再び装束を裏返したビアトロは対岸に通じる橋への最短距離となっている裏路地に入り、足早に進む。


と。

「へへへ、旦那、人探しかい」


脇からかけられた声にビアトロは、再び腰の剣に手をかけながら振り向く。


そこに立っていたのはビアトロ同様に革鎧を着込み、その上から外套を纏う軽戦士の装いの人物。


しかし、彼とは違い、見たところ腰に帯びているのは短剣のみ。


どうやら本職の戦士ではなさそうである。

「ええ。

……あなたは?」


構えは解かないままに尋ねるビアトロ、しかし、相手は気にすることなく続ける。


「俺かい?リオグルっていうしがない情報屋さ。どうだい?手を貸してやろうか?もちろん出すもの次第だが」


相手のその提案にビアトロは思案を巡らせる。


先程のように裏路地といういわば日陰に追いやられた場所に住まうものがよそ者相手に、口を閉ざす事は少なくはない。


とはいえ……


「成功報酬の一割、でどうです」


こちらの窮状を見て取引を持ちかけてきたのは明らかなので、ビアトロは渋めの値段を提示する。


「おいおい、それはないだろう。せめて三割はもらわないと」


「……それは高いですね、たかが人探しに」


ふっ掛けてきた相手に対し、ビアトロは冷たくあしらいながらも反応を伺う。


このくらいの交渉で声を荒げ、交渉を打ち切るような相手なら金を出すような価値はないだろう。


だが……

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