第5話 無法はびこる裏世界

ビアトロはこっそりとため息をつくと懐から何枚かの銅貨を取り出し、彼の手に渡す、と。


「……おお、思い出した。そいつなら橋を挟んだ対岸に行ったぞ」


男は受け取った銅貨を懐にしまいながらそう白々しく答える。


「ありがとう」


ビアトロはそう言うと踵を返し、歩き始める。


「おいおい、あんたもういいのか?」


「ええ、あとは向こうで聞き込みます」


しれっとそう答え、ビアトロは足早に立ち去る。


数歩歩くと背後から小さな舌打ちの音が聞こえると、ビアトロは再び小さくため息をつく。


正直、あんな調子で情報料を支払っていたらきりがない。


どこか信用できる情報源がほしいところではあるが、この街に来て間もない彼にはあてはない。


高くそびえる廃墟同然の町並み、その合間から見える空の天頂で輝く太陽を仰ぎ、若干の疲労を覚えながらもビアトロは得た情報を基に川向こうに行くため、表街に通じている裏路地を進む。


と、

「お前だな、ここいらをうろついているよそ者は?ここは俺たちの縄張りだ」


突然かけられた声に彼は足を止める。


振り返った彼の視線の先には腰に剣を帯びた数人の男たち。


そして背後から気配と物音。


振り返ると、そちらにも剣を手にした男たちが。


囲まれた。


ビアトロは纏った外套の内側で剣に手を伸ばす。


それに気づいた男たちも剣に手をかける。


ビアトロは剣の柄を握ったまま歩を踏み出すと……外套を翻して反対へと駆け出す!


「なっ!」


まさか自分たちの側に向かってくるとは思わなかったのか、男たちの反応がわずかに遅れる。


そのわずかの間にビアトロは、男たちの間を走り抜け、表街に向かって駆けていく。

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