第4話 不慣れな街での探索

息子が行方不明になった。さがしだして欲しい」


クナンの紹介で出会った人物は自分が依頼人であることを告げると、開口一番そう言った。


そこは裏路地の一角にある崩れかけた家の中。


埃とかびの匂いが漂う室内に依頼人は待ち構えていた。

しかし、ここがこの人物の家などとはビアトロは思わない。


古びた椅子に腰を掛け、杖をついたままこちらを見上げている白髪白ひげの老人。


穏やかな表情で一見すると好々爺こうこうやに思えるものの、時折こちらを値踏みしているような鋭い視線をビアトロは感じた。


そして、この家の中に入ってから彼はずっと、そこかしこから視線を感じていた。


おそらくその視線の主はこの老人の護衛かなにかなのだろう。


場を包むただならぬ緊張感。確かにこの裏路地の支配者と言われても納得である。


「分かりました。で、息子さんの特徴は?」


「うむ」


内心の緊張はおくびにも出さず尋ね、相手の特徴を教えてもらったビアトロは一礼してその家を出ると、


「とりあえず話にあった南の裏路地に行ってみるか」


彼は足早に一旦表道に出ると、今度は反対の川沿いの裏路地に足を踏み入れ、情報を売り買いする情報屋や裏路地のあちこちに住み着いている浮浪者を相手に聞き込みを行うことにした。


しかし、その前に彼は人目につかないところで革鎧を脱ぎ、まとっていた服や帽子、外套を脱ぐと、生地を裏返して着込んで再び革鎧を身につける。


白装束だった彼はありきたりな、森の中に紛れたら目につかない暗い緑色装束の旅人の装いとなる。


普段とは違う装いになった彼は聞き込みを始める。

しかし、それは容易ではなかった。


「そうだなあ……そいつならどこかで見たような気がするなあ」


建物の影で日がささないじめじめした裏路地の一角に座り込んでいた、ぼろぼろな服装の浮浪者にビアトロは探し人の特徴を伝え、行方を尋ねると相手はそう言って視線を明後日の方向にそらす。


だが彼の手は不自然に握っては開きを繰り返し、ビアトロに何かを促している。

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