第3話 曲者の依頼人

地下にも関わらず、地上の酒場と変わらない喧騒とそこにわずかに香る葡萄酒の匂いの中、ビアトロはここの支部を取り仕切っている代表を相手に仕事について訪ねていた。


「仕事?」


「ああ。遠出をしない、なるべく危険が少ないやつを」


支部の奥にある受付の卓を挟んでビアトロは訪ねる。


「そいつは難しいな」


相手は卓の向こうで奥の棚におかれた巻物の中身や壁にかかっている木札を覗きこみながら答える。


この人物はクナンといい、ここの支部を取り仕切っているいわば支部の代表といってもよい存在である。


普段はここを訪れる冒険者相手に相談を聞いたり、受付で依頼の斡旋などもしている。


だが、ここのルーメ・ラースはかつての戦いにおいて抵抗運動の中核となった由緒ある支部。そこの代表を務めているのだから只者ではないだろう。


ビアトロはそう推測していた。


「報酬についてとやかくは言わない、滞在に支障をきたしているわけではないから」


それを聞いたクナンはしきりにうなずきながら一枚の木札を差し出す。


「なら、これならどうだい」


幾度も書かれては削られた使い回し跡が残る木札に今書かれているのは仕事の内容と報酬額……


それを見たビアトロの顔が険しくなる。


「人探しか。にしては報酬が……」


相場よりも高い。いぶかしむビアトロに対しクナンは口元を笑みの形に歪めると、声をひときわ潜めて言葉を続ける。


「ああ、依頼人が曲者だからな」


「曲者?」


「この裏路地の支配者のような人物さ」


その言葉にビアトロは表情をさらに険しくさせる。

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