第8話
冷静でありながら、体は男と距離を詰めていた
男がジリジリと後退りしているのも見えている
しかし、この歩みが止まることはない
天使の力である翼が現れたのを気配で感じ、翼が世界中の霊力を集めて神機に注ぎ込んでいる
(なるほど、こういう使い方もあるんだね)
一見冷静を装っているが、今必死に神機と翼の制御を切り離そうと奮闘しているのだ
というのも、白昼堂々(とはいえ朝だが)人を殺すなんてことをすれば明確に目立ってしまう
そうなれば、冬風の名を地に落とすことにもなるかもしれない
(止まらない…!)
「なんだ…なんなんだよ、お前は…!」
(名乗るほどの余裕は、ないよ…!)
人は思っているより、言葉を口に出すのに脳のリソースを割いている
ほとんどの処理を力の制御に回している以上、名乗りに応じることさえ惜しい
(神機…切り離し成功…!)
銃がようやく手を離れ、地面に落ちる
その瞬間翼が勝手に空を舞い、上空から男を急襲する
(間に合わな――!)
その翼が男に突き刺さる寸前、それらを弾き飛ばした者がいた
「ったく…。先が思いやられるな、彩斗」
「…ちち、うえ…!?」
「外部接続開始…。接続完了、彩斗から切り離し…完了」
「母上も…」
その場に現れたのは彩斗の両親である夜斗と弥生
そして、零奈の両親だった
「一般人を殺すのは許容できないぞ、彩斗」
「…それは、そう…だが」
「理由があったの?」
「…その男は、10年より前に…零奈を、ここに沈めた人間だよ」
赤くなった両目で、男を指さした
状況を飲み込めていない男が尻餅をつく
「僕がそれを認識したと同時に、神機と機械翼の制御ができなくなった。最終的に、神機は切り離せたけど機械翼は…」
「成程。確かに、第2世代の天使は力の制御ができるまで時間がかかる」
「そうなのか。ひとまず彩斗は家に帰れ。弥生、送ってやれるか?」
「ん。了解」
弥生が彩斗を撫でながら、何らかの力を用いて転移を起動した
その結果残されたのは夜斗と、零奈の両親――霊斗と天音の3人。そして、人間
「こいつが俺の娘を殺した…っていう人間かぁ」
「実際相対してみるとなっさけない顔してるよねぇ」
霊斗と天音が青筋を浮かべながら距離を詰めるのを片手で制した夜斗
黒と紫で構成された刀型の神機を男の眼前に突き出した
「おい小童。お前にいくつか聞きたいことがある」
「な、なんだよ…。ていうか、あんたら一体…」
「俺は第零特務機関総司令、冬風夜斗。こいつらは部下であり、かつてお前が川に突き落とした女の親だ」
「あの、ときの…」
震える男の真横に刀を突き立てた夜斗が転移を起動する
目を閉じた夜斗以外の3人が目を開くと、無機質なコンクリートで覆われた部屋の中に立たされていた
「こ、これって…」
「話してもらうぞ。動機も、やったことも全て」
カランという音を立てて現れた少女が哀れみの目で男を見つめていた
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