第9話

彩斗を送り届けた弥生は爆速で帰宅し、取り残された彩斗は玄関先で靴を脱いだ

転移をする際に靴を生成しているため、家の中から転移したとしてもしっかり靴は装備している


(全く…いつまでいちゃつくのだろう)


弥生が爆速帰宅を敢行したのは夫である夜斗と過ごす時間を大切にしているため

ひいては触れ合いを楽しむためだ


(妹か弟でもできるのかな、と思ったけど僕の姉はそろそろお局様とか呼ばれる歳だしまだ先かな)


彩斗の姉・かえでは50歳を超えている

とはいえ見た目は未だ20代かそこらであり、高校の制服が似合ってしまう

横に並んでも違和感はそこまでないのだ


(…おや、まだ寝てるね。この間に試作品でも試そうか)


寝る部屋とは別の部屋に入り、一番奥に置かれたパソコンのようなものを起動する

これ自体は夜斗が提供したものだが、中身は彩斗の手でかなり改造してあるのだ

そしてこれに接続されたクレジットカードサイズの端末こそ、彩斗オリジナルの試作品


(試作型魔法情報端末。僕が作った、魔法を誰でも使えるようにする杖の1つ。ただし、単一魔法を刻んだ魔導具よりは効率に劣るがね)


パソコンから切り離して握り込む

厚みは3センチほどで、胸ポケットに入れる分には支障はないだろう


(魔法情報端末、起動)


端末の画面にAcceptという文字が現れてすぐに消える

彩斗の体から霊力を抽出して吸い込み、起動した

霊力というものは人間と死神が持つ力であり、魔族はこれを持たない

つまり、これを使えるのは人間と死神だけだ


(そもそも魔法は魔力を使うのだから、霊力は不要なのだがね)


この端末の役目は主に3つ

魔法をプログラム化した魔法式の記録、発動に伴い必要な演算の実行

そしてもう一つが霊力を魔力に変換する、というものだ


(魔法式展開。…発動まで0.2秒か。遅い)


彩斗の満足を引き出すことはできなかったものの、これは革新的な発明と言える

現代日本での防衛手段はほとんどなく、悪人が銃を持ち出せば死んだも同然だ

しかしこれを使い、防御魔法でも使えばたちまち立場が逆転する


(吸血鬼が魔法を発動するときはタイムラグがない。機械を通す以上多少ロスがあるのは仕方ないんだがね…)


魔導具は1つの魔法式を刻印した道具で端末より早く魔法を使える

代わりに多くの魔法を使おうと思ったら何個も持ち歩かねばならないのが欠点だ

それを改善しようとしたのだが、別の欠点ができてしまっている


(どうしたものかな…。やはり市販の部品ではこんなものか)


この端末は既存の基板やディスプレイを使用し、プログラムを流し込んだだけの簡易的なものだ

当然処理スペックは彩斗が求めるレベルより遥か下回る


「あれ…早起きだね、彩斗」

「起きたんだね。何か食べるかい?」

「あさイチから食欲ないよ…」


布団の上で転がる零奈がフラフラと起き上がった

頼りない足取りで洗面台まで移動し、顔に水を掛ける


「目が覚めた!」

「どういうシステムなのさそれ」

「第2世代吸血鬼も水は苦手だから、顔にかけるとダメージを負って目が覚める!」

「危険なやり方だね…。聖水じゃないだけマシか…」

「本気で眠い時は聖水でやるよ」

「…ほどほどにね」


笑う零奈をよそに気が気でない彩斗

第2世代というだけで吸血鬼に水が有効になる

実際零奈はかなづちなんてものじゃないほど泳げず、聖水なんて食らえばしっかり火傷のような症状を負うだろう

少量だったり希釈されていれば多少マシかもしれないが


「朝から出かけてたの?そういう匂いがする」

「少々野暮用でね」


そう言いながら腕輪を投げ渡す

驚きながらも受け取り、さらに驚きを見せた


「こ、これ…」

「神族の腕輪だろう?拾い物だけどね」

「私専用のものなのに…?」

「ふむ…。気まぐれで川を割ったら落ちていただけだよ」


彩斗はそう言い残して風呂場へと向かった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

許嫁は吸血姫 さむがりなひと @mukyo

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ