第7話

目を覚ました彩斗は、横で寝ている零奈に目をやり頭を撫でた


(少々、気の利かないことを言ってしまったね)


そう思いながら着替えを済ませ、外へ出る

そして父たる最強の死神から遺伝した力を使い、夢で見た川へと転移した


(座標はこのあたりのはずだけど…景色が変わりすぎてる)


川岸には有刺鉄線と金網で侵入防止措置が講じられており、容易には入れない

その上周辺には家や学校が立ち並び、新興住宅地となっていた


(…見つけた)


川底に目を向け指差す

そこにある過去の遺物を目標に据えて目を閉じた


(魔力探知のおかげで座標と形状はわかった。けど、魔術や魔法の類で持ち上げられない。腕輪に宿る神格で無効化されてしまう。つまり、同じ神の力なら…)


彩斗が来ているワイシャツの右袖が黒く染まる

さらには右眼が赤く輝き、右腕の染みがワイシャツの半分を飲み込んだ


【我が手に集え、神々の力よ】


心臓に響くような低く重い声で呟く

すると川のど真ん中に大きな穴が空き、川底を空の下へ晒した

さらにその中央に落ちていた白銀の腕輪が浮かび上がり、彩斗の右手の中へとゆっくり移動する


(…よし)


右半身の黒いものが消え、目も元の黒に戻った

白銀の腕輪が太陽光を反射するのとほぼ同時、川の水が元へ戻り巨大な水柱を作る


(目立たないように早く帰ろうかな)

「お前…なにもんだ…?」

(…?おや、この人間は…)


彩斗の眼の前に立ち、指をさしてきているのはあの映像に出てきた男の子だった

いくらか成長しているとはいえどこか似た雰囲気を纏っており、服装も半グレといった様子である


「何者か、とはまず君が名乗るべきだろう?」

「あの女の…関係者か…?」

「話を聞いてほしいな…。まぁそれには是を返そう。僕はいわゆる許嫁だよ。君が殺そうとした女の子のね」


彩斗の手に銃が現れた

無意識にそれを男に向けハッとする


(神機が強制的に召喚された…!?)

「な、なんだよお前…そんなもん撃ったら捕まるんだからな!?」

「さて、どうだろう?僕の父上は少々、僕に寛容すぎるからね」


神機と呼ばれるものがある

それは、死神が生まれながらにして契約している武器のことで、意思を持つ道具だ

それらは契約者である死神に呼応し、感情の昂ぶりに応えて現れることがある。つまり


(僕は、怒っているのか。人間ごときに)


怒りを認識した瞬間、自分の心にしていた錠前が壊れる感覚がした

中から溢れ出るどす黒い感情が視界を覆い、世界から色を奪う


(これが、怒り…)


父・夜斗は、当時付き合っていた恋人――現在の妻・弥生――と過激派魔族が交戦し、弥生にかすり傷をつけた過激派魔族を前に怒りに飲まれ残虐の限りを尽くしたとされている


(なるほどこれは、たしかに抑えきれるものではないね)


赤く染まった目を男に向けた

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