第3話

零奈を外に放置するわけにもいかないため、ひとまず自宅へと招き入れた彩斗

風呂に入っていった零奈のために服を死神の術で錬成しながらあるところへ電話をかけた


『なんだ』

「父上か。なんか、父上の親友の娘さんがこっちにきているんだよ」

『…まだもっと先の予定だったはずだが』

「なんか空間制御ミスったとかで…って、先の予定…?」


電話相手は父であり、零奈の親の親友である夜斗

開幕即座に告げられた謎の言葉が引っかかり聞き返してしまった


『零奈はお前の許嫁だ』

「…は?」

『中学生時代に霊斗と約束したんだ。お互いに子どもができて異性なら許嫁にしよう、ってな』

「え…?」

『知っての通り、お前には姉がいるんだが零奈にも姉がいる。第一子はお互い女の子だからと見送り、第二子が異性だったから許嫁とした』

「な、何を言って…」

『で、今後零奈が高校卒業したらそっちに送り込むつもりだったんだ。手間が省けたな』

「いや、ちょ…」

『まぁそういうことで頑張れ。まぁお前の給料だけではきついだろうし仕送りはしてやるから』

「そういう問題じゃなくて…」

『おっと、弥生に呼ばれたからもう切るぞ。じゃあな』

「あ、ちょ…本当に切った…。いや結婚して何年いちゃつく気なのかなあの夫婦」


弥生というのは夜斗の妻であり、彩斗の母親だ

彩斗が生まれた頃、夜斗の嫉妬が彩斗に向けられたため、高校入学と同時に家を追い出された

その結果、今では一人暮らしに完璧に慣れており、社会人1年目とは思えないほどの生活力を有している


「じゃなぁぁぁい!なんであんな投げやりなんだあの父親ひとは!?」

「……あがったけど、何してるの…?」

「ああすまない…って服を着ないまま出歩くなぁ!」


作りたての服を投げつける

零奈は何の恥じらいもなく、タオルを巻くことすらなく髪を梳かしながらドライヤーを使って乾燥させていた


「あっぶな。別にいいでしょ減るもんじゃないし」

「比較的男側のセリフなんだよねそれ!統計的に!」

「だって、未来の旦那様に見られたところで…ねぇ?」


魔術を使っているのか、零奈の真上に浮かぶ服がふよふよと動いている

零奈は硬直した彩斗のめのまえまで歩み寄り、頭を撫でた


「ハッ…。って近いなぁ距離感!」

「え?そう?まぁ胸を凝視されても、今後いくらでも見られることになるし」

「随分淡々としてるね!僕は未だに飲み込めてないんだよこの状況を!」

「一旦落ち着いたらどう?」

「誰のせいだと思ってんだい!?」


深呼吸をしながら心を落ち着かせる彩斗

その間に髪を乾かし終わった零奈は渡された服を身に着けた


「で、落ち着いた?」

「まぁ…」

「じゃあ不束者ですが…」

「早い早い早い!まだ出会ってから2時間経ってないからね!?」

「え、どこから話せばいい?」

「最初からお願いするよ…」

「えーと…2000年12月、私の父が生まれました」

「最初すぎる!もっと簡潔に!」

「冬風の第二子と許嫁になってるからよろしくなってお父さんに言われて育った10年でした」

「そんな前から決まってたのか…。僕はさっき知ったところだよ」


腕時計型の端末を睨みながら恨めしそうに言う

スマホなんてものは時代遅れとされており、今の主流はこのようなアクセサリー一体型だ

夜斗や霊斗のように、専用の媒体がないと落ち着かないという所謂レトロ派もいるのだが開発はもはやされていないに等しい


「まぁ言わないでしょ。だって、貴方すぐ逃げるらしいし」

「…知ってたんだね」

「もちろん。未来の旦那様のことは調べてあるよ」

「だとすれば余計にわからないね。僕は軽々と女を捨てるよ」


とはいえ恋人ができたことはない

無意識に女を落とし、無意識に期待させてしまう性格ではあるものの、恋情を向けられたとわかれば即座に彼女ができたと噂を流して尽くを処理してきたのだ


「裏には、夜斗さんの権威を悪用されたくないって思いがある」

「……」

「それに比べて、私とか良物件じゃない?私の父にも権威はあるし、母も元神様。権威を利用しようとは思わないし、単純にただの許嫁。私が勝手に貴方を欲しがっただけ」

「…欲しがった…?」

「うん。私は、貴方を知ってるの。7年前からね」


7年前の記憶を思い返す


(そういえば、父上の実家近くに緋月さんの実家があったような…。そこで会った記憶も、ある)

「思い出した?」

「まぁ…なんとなくだけどね」

「その頃はある種の興味だけど、行き過ぎた興味は愛にもなるんだよ」


そんな言葉を聞いて彩斗は、裏があるのではないかと思考を巡らせていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る