甘い✕甘い
ふかふかの布団をめくると温かい空気が漏れ出し、蓋をするように足を入れる。
こたつに突っ伏し、冷凍庫から出したてのバニラカップアイスが程よく解けるのを待っていると、足音が聞こえてきた。この足音は母さんでも父さんでもなく、
「おはよ、お兄ちゃん」
「ん、おはよう」
顔だけ向けて挨拶すると、月美は俺の左隣に座ってこたつに足を突っ込み、俺の足にくっつけてきた。
「お兄ちゃんもこたつもあったか〜い」
「俺は冷たい思いをしているが?」
「そんなこと言って、可愛い妹にくっついてもらえて嬉しいくせに〜このこのー」
そう言うと抱きついてきて暖を取ってくる。
「はいはい可愛い可愛い」
月美の肩を抱き寄せた。
なんだかんだ言いはするが月美にくっつかれるのは心地良い。
「はぁー、あったかくて気持ちいー」
そのまましばらく経ち、俺はアイスを食べ始め、月美はトイレのついでにココアを入れて戻ってきた。
月美は再び俺の隣に座ると、
「あじみー」
ひな鳥のように口を開けた。
スプーンですくって口に運んでやり、続いて俺も一口食べた。甘い香りと味が口の中で広がる。
こたつで身体が温もった状態で食べるアイスは真夏に食べる以上に美味しい。
もう一口食べようとスプーンでアイスをすくうと、月美が再び口を開けた。
味見パートツーといったところだろう。
月美の口にアイスを入れると、月美はすぐさまココアを飲み、口の中で混ぜた。
「邪道だろ」
「えー! アイスとココア。おいしいものとおいしいものを合わせて美味しくないわけがない!」
「いやいやいやいや、ものによるだろう」
「じゃあお兄ちゃんも試してみてよ!」
「いやだよ」
「食わず嫌いだなぁ、もう」
月美は頬を膨らませて突っ伏した。俺は気にせずアイスを食べていると、月美はガバッと顔をあげ、
「いいこと思いついた」
と、イタズラに微笑んだ。
「お兄ちゃん、もう一口」
いいこと思いついたと言っておいてなぜもらえると思うのだろう。
まあ、妹にねだられたらあげてしまうのが兄という生き物なのだが。
アイスを口に入れてやると月美は再びココアを口に含み、そして俺の顔に顔を近づけてきた。
間近で見ると、まつ毛が長いことがよく分かる。そんなことを思っている間に、月美の口で俺の口を塞がれてしまった。
「ん、んんーー!?」
舌で口をこじ開けられ、アイスの混ざったココアを流し込まれた。
ゴクリ。
咽ないようにと飲み込んだ自分の喉の音が聞こえた。
月美を見やると、自分でやったくせに頬を朱に染めていた。
「どう、だった?」
照れながらそう言われ、俺も顔が熱くなるのを感じる。
「いや、いきなり過ぎて、わからない」
ココア特有の甘ったるさは一瞬あったが、それ以外の要素にすべてを持っていかれた。
「じゃあもう一回、飲む?」
言葉に詰まっていると、左手に指を絡めてきた。
「お兄ちゃん、もう一回、したい?」
月美の艶のある薄い唇から目が離せなくなり、心臓の鼓動が速まる。
それから俺たちは、どちらからともなく近づいた。
そして触れ合う寸前、
ドタドタと母さんか父さんの足音が聞こえ慌てて飛び退いた。
「おはよう」
「お、おはよう母さん」
「お母さんおはよう」
「アンタたち顔赤いわよ? こたつ入りすぎじゃない?」
「そ、そうかな」
「ほどほどにしなさいよ〜。うー、トイレトイレ」
母さんが部屋から離れてもまだ心臓が煩く深呼吸して整えていると、月美は耳元で、
「夜、お母さんが寝てから、ね?」
そう囁いてきた。
心臓ごトクンと跳ね、月美を見やると、こちらに背を向けて寝転んだ。
髪の隙間からはみ出した右耳は真っ赤だった。
〈甘い✕甘い・終〉
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