もし私が理系だったら、マッドサイエンティストだった(仮)

神永 遙麦

もし私が理系だったら、マッドサイエンティストだった(仮)

 大学で古馴染みの男の子に会った。私の初恋の人。

 今日は日曜だから、何かの試験で来たのかな?

 

 昔の彼はサラサラした黒い髪、パッチリとくりくりした大きな黒い目、色白で薄い眉。細い顎、通った鼻筋。今よく考えても、よりゃ恋しちゃうよ、って思うくらいハンサムだった。淡くてモヤモヤする恋心を抱えていて、だから他の女の子と仲良さそうとちょっと嫌で……。今思い返すと、子どもの友情の延長のような恋心だった。すっかり忘れていたけど、向こうもいつの間にか疎遠になっていた昔馴染みの1人なんて忘れてるっしょ。


 あれ以来恋なんてしていない。今の私は大人のような恋に憧れている。小説のような劇的で、感情を根底から大きく揺さぶられるような恋に。いつかそんな恋をした暁にはいつかの物語のネタになるかも。デートなんて面倒くさいから気持ちだけでいい。どんな形の恋であろうと構わない、恋さえ出来たら。そして詩のネタにしたい。恋の詩は多いのにリアルティを持って書けないなんて嫌だ。

 こんな願い、人には明かせない。もし私が理系に進んでいたらマッドサイエンティストだった、と思う。どの分野かにもよるけど、下手をすれば人の命を奪うことすら……。


 今日は図書館に用があって大学に来た。短歌なんてネットで見るより、本屋か図書館で読む方が楽しいに決まってる。本棚から何気なく手に取った短歌集には驚きときらめきが満ちているから。そんな本が私に新しい感情をもたらしてくれた時の感動は誰かが読んだ形跡のある本には過去とロマンスがある。

 なんて、これ全部本の受け売り。でも私の本音でもある。ん? 本音なのかな、それともすり替わっちゃっただけ? もういいや。でも、私が「恋すること」に執着し始めた一因でもあるから有り難いのかな?


 恋をするならイケメンよりのブサメンがいい。ギャンブル依存症か前科者とかの問題を抱えていればなお良い。そんな人に恋心を抱くんなら、さぞかし熱烈なんでしょう。その恋心を言語化できる頃になったら、歌にしたい。

 

 昼になったから学食へ行くことにした。空腹は感じないけど、時間だから食べよう。図書館から出て、キャンパスを横切り食堂に向かっていると足を止めるはめになった。

茅颯ちはや?」と、後ろから名前を呼ばれたから。振り返ると声変わりした昔馴染みだった。


 黒くてサラサラしていた髪は、今はもうアッシュのメッシュが入っていて、緩いパーマが掛けられている。ちょっと日焼けしてるけど、あとは男の子から青年になりかけてるだけ。


「お久〜」と適当に流した。伊達男はタイプじゃないし、ご飯食べたい。

 あ、でも、もしもここから私の恋心が再燃したらネタになるかも。

「元気だった、……佳人よしと?」

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もし私が理系だったら、マッドサイエンティストだった(仮) 神永 遙麦 @hosanna_7

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