3種のきのこのチーズリゾット④
稽古をおえて気がつけば夜になっていました。いつものように
──どうせあいつはひとりだと適当な食事しか取らない。だから持っていてやれ。いつもの湖畔にいるだろう。
と、夕食後に長老さまが言うので、わたしは木皿を持って森を抜け、大陸湖のほとりに向かいました。
(
夜風に吹かれながら湖畔に座る
一歩近づくと、
「長老さまが
リゾットを受け取った
(夜は嫌いです……)
ええ、わたしは夜が嫌いです。自分を置いて森を出ていった両親のことを思い出すからですね。夜なんて大嫌い。はやく眠ってさっさと朝日迎えたいものです。だけどお皿の回収もありますから、わたしは膝を抱えて待機です。しかしまぁ隣の人はずっと無言ですし、大嫌いな夜ですし、この間がけっこう辛くて、つい弱音をこぼしてしまいました。
「師匠……どうしてわたしには高い魔力が宿らなかったのでしょう」
「…………」
「もしも強い力があれば、両親だってあんな風に喧嘩をすることも家を出ることも無かったのに」
「…………」
返事はありません。当然です。きっとこんな話をされて困っているのでしょう。
「瞳の色が赤に近づくほど魔力が高い証拠だそうです。事実、
火の魔法が得意なのに。
わたしは膝に顔をうずめて、ひとりでしんみりしていました。すると、一拍置いてから静かな声が頭に落ちてきました。
「……氷の薔薇」
「え?」
顔をあげると、空になった木皿を脇に置いて
「雪原に咲く氷の薔薇。君はみたことがあるかな」
「氷の、薔薇? いえ……」
わたしが首を横に振ると、
「『
「それってヴィクトルローズのことですよね? その花なら知っていますが、氷で出来た薔薇ではなく、ただの青い薔薇ですよね、それ」
おっと、ついつい
「そうか。では、見たことは?」
「え……いえ。実物は……その、あれは北部に咲く花ですし……」
これは気まずいです。いま偉そうに
ヴィクトルローズ。
わたしがおずおずと
白い髪が微風に揺れるその横顔は、落ちついた大人の
「──その青薔薇が夜間に凍りつくと美しい花の結晶になる。そして夜明け。朝日を浴びて青白い光を発する。君の瞳はその輝きによく似ている」
「…………はぁ」
よくわからない。きらきらした結晶のなかに青い薔薇がある。そんなイメージでしょうか。
波風ひとつ立たない湖畔のように静かな瞳。それでいて、夜を明るく照らしてくれる
吸い込まれるような
「綺麗だよ。まるで氷の
「…………っ」
きっとその瞬間に、わたしは
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