3種のきのこのチーズリゾット③
「わたしがこの店を開いたのは、
「
「はい。むかし魔法の指導をしてくれたかたでして。前の長老様がお亡くなりになってからは、ぱったりと村にこなくなったから……それで
ロゼが苦笑する。そういえば前にそんなことを彼女が話していた。ほんの短い間だったけれど、魔法をみてくれた先生だ。ノルが顔があげると、ペリードが不思議そうに首を曲げた。
「その人とは? 連絡は取れないのかい?」
「ええ、大陸中を旅しているそうですからなかなか……」
「旅か……」
「はい。だから料理屋さんでも開ければ、
「なるほどね。それで
ペリードが思案げにつぶやくと、ロゼが頷いた。
「だったら、僕も探そうか? 自分でいうのもなんだけど
「あー……、いえ」
「?」
ロセが困ったように言葉を濁す。
「
「そうかい? なら、もし助力が必要になったらいつでも言ってくれ。友人の頼みならいつでも歓迎するよ」
「ありがとうございます」
ロゼが笑うと、ペリードが立ち上がった。リゾットを食べ終えたようだ。綺麗な空皿を残し、彼は玄関に向かった。
「それじゃあ、そろそろ僕は帰るよ。早くさっきのアイデアを絵に起こさないとね。おいしい昼食をありがとう」
「いえ。お気をつけてお帰りください」
扉に手をかけたところで、ペリードが「ああ、そうだ」と振り返る。
「今後も兄さんの……魔導師団長の力になってもらえると助かる。お願いできるかな?」
「? それはもちろんですが」
首をかしげるロゼにペリードが苦笑する。
「ほら、僕はもう城にはいられないからね。だから代わりにあの人のことをよろしく頼むよ」
「ああ…………はい。お任せください」
微力ながらお力添えできればと思います、と続けてロゼが少し切なげに微笑んだ。ペリードが出ていく。ノルは彼の背中を見て目を細めた。
(あの兄ちゃんも意外と苦労人だよなぁ)
これは余談だが、彼が仕えていた第二王子は今年の初夏に辺境へと追いやられたそうだ。なんでも弟王子を失脚させようとして返り討ちにあったのだとか。ノルも詳しくは知らないが、一時期王都ではその話題で持ちきりだった。
おそらく彼も、主の失脚とともに城での居場所を失ったのだろう。
(まぁ、だからといってケーキ屋、やりだす意味はよくわからんが……)
趣味がこうじてというやつか。しかし彼は貴族の坊っちゃんだ。重労働の菓子店より、売れない画家のほうが楽だろうに。どうせ暮らしには困らないのだから。
「ふぃー、やっとこれでリゾットがくえるぜ」
ペリードが帰り、ノルは机から飛び降りた。
(むむ?)
ロゼが嬉しそうに目を細めて、薔薇の花びらを指でつついている。
あいつにもらった花がそんなに嬉しいのか?
もやっとしてノルは彼女の足に頭突きした。
「ちょっ、ノルさん。どうしたんですか、急に頭突くなんて」
「なんとなく。それよりもロゼ、リゾットくれ」
「はいはい。すこしお待ちくださいね? いまこちらを花瓶に移してしまいますから」
ロゼはカウンターの棚から花瓶を取り出すと花束を移し変えた。店内に綺麗な青い薔薇が咲いた。ノルは微笑むロゼの横顔をじっと見あげた。
「珍しいな。お前さんが花を飾るなんて。いつもは俺が摘んできた花とか即ゴミ箱行きなのによ」
ノルがゴミ箱をみれば、さきほどロゼが丸めた包装紙(花束を巻いていた)が入っている。いつもあんな風にノルの贈り物も捨てられてしまうのだ。
「いえ……、だってノルが摘んでくるやつってその辺の雑草ですし。花瓶にいけて飾ったら、みすぼらしいお店になってしまうかと……」
「なにおぅ!? ……と、言いたいとこだが、たしかに否定できない……」
雑草だらけの店内とか。ある意味落ちつくかもしれないが、お洒落な店とは真逆になってしまう。
「しっかし、珍しいついでに言えば、青い薔薇ってのも初めて見るな。ふつう薔薇といえば赤とか
ノルがぴょんとカウンターに飛び乗り、しげしげと薔薇を観察する。濃い青。小型の種類なのか、一輪一輪小ぶりの愛らしい花をつけている。ロゼがノルの隣にやってきて、花びらに指を添えた。
「こちらは
「ほーん、たしか
だからさっきから楽しげに花びらをつついて遊んでいるわけか。ノルは合点がいって頷いた。しかしロゼ曰くそういうわけではないらしい。
「わたしは
「そうなん? なら、普通にこの花が好きとか?」
「うーん、どうなんでしょう? あまり植物には詳しくないですし……でも、特別な花なのは確かですね」
「と、いうと?」
「実はわたしが『氷』の魔女と名乗っているのは、この薔薇に由来するからなのですよ」
「ほう」
それは初耳だ。ノルは首をあげてその話を詳しくたずねた。するとロゼはくすりと笑ってノルの背中を撫でた。
「──では、すこし昔の話でもしましょうか」
ロゼが椅子に腰かけ、懐かしい想い出話を語った。
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