第11話 性格

 村の討伐隊が、街道を進む。


 俺はその後を、少し離れて付いて行く。


 剣術の手練れで構成された討伐隊が、猿の魔物の生息域へと近付く。

 すると、こちらの接近に気付いた敵勢力から、攻撃を仕掛けてきた。






 猿の魔物の数匹が、縄張りへの侵入者を感知すると、キィーキィーという甲高い警告音でこちらを威嚇しつつ、仲間に敵の接近を知らせる。


 警告を受けた敵集団は、戦闘態勢に移行する。




 敵部隊は森に潜み、こちらを取り囲む。

 投石部隊がすばやく木の上に登るのが、気配で分かった。

 


 ――ヒュッ!! ヒュッ!! ヒュッ!!



 まずは石を投げつけてくる。


 討伐隊は石の軌道を見極めて、小楯でガードする。



 俺は討伐隊から少し離れた位置で、飛んでくる石を刀で斬って防ぐ――

 盾とか、装備してないからな。



 遠距離攻撃が一段落すると、山の中からサルの群れが突撃してきた。


 三方向からそれぞれ約二十の群れが、討伐隊を囲むように現れる。




 猿の魔物は木の上から石を投げつける投石隊と、こちらに接近して、爪や牙で攻撃してくる近接部隊を組織していた。


 魔物の分際で、ちゃんと役割分担が出来ている。





 ザシュッ!!!


 俺は自分に接近する猿の魔物を、順番に切り伏せていく。

 刀を振るい、猿の首、手足、胴……。


 自分の動きが止まらない様に、間合いに入った敵に致命傷を与えていく。

 動きを止めないことが最優先で、止めを刺すのは後回し――


 

 周囲の敵を行動不能にした俺に、一斉に石が投げつけられる。

 投石攻撃の間は、近接部隊は近寄ってこない。

 

 石を避けることに専念する。



 投石が途切れると、近接部隊が突撃を再開する。


 俺がそちらに意識を向けると、死角から、気配を隠した敵が接近――

 良い連携だ、が……。


 俺は敵の足音を拾い、気配で存在に気付いている。 




 不用意に近づいてきた敵の、身体のどこかを振り向きざまに斬りつける。


 ザシュッ――



 どこを斬ったのかを、確かめる余裕はない。

 近接部隊が、迫っていた。



 ……。

 …………。

 十数分の攻防で、俺は猿の魔物を三十匹以上は仕留めた。


 





「他の奴らは、どうかな――?」


 周囲の魔物を、あらかた倒し終えた。

 余裕の出来た俺は、他の討伐隊の様子を確認する。



 討伐隊の周囲には、致命傷を受けて倒れている猿の魔物が、多数転がっている。


 討伐隊の側も、倒れている人間が数名見える。



 死人を蘇らせることは出来ないが――

 傷を負って倒れているだけであれば、回復は可能だ。


「死んでなきゃ、良いけどな……」

 


 早く治してやった方が、生存率は上がる。

 だが今は回復よりも、敵の殲滅の方を優先すべきだろう。 



 治している隙に、攻撃を受ければ対処しきれない。

 楽に倒しているように見えるかもしれないが、少しでも気を抜けば不覚を取る。


 一撃でも食らえば大怪我だ。

 



 敵の身体能力は高い。

 油断があれば、こちらが殺される。



 敵の第二陣が、俺に向かってくる。

 高速で飛来する石を、軽く身のこなしで避ける。


 避け終えて、体勢が崩れたところに――


 敵の群れが、押し寄せてきた。


 




 俺は討伐隊から離れ、一人で複数を相手にしていた。

 他の討伐隊は五人一組で互いの背中を守り、猿の魔物を迎え撃っている。



 それぞれ刀を装備して、腕に小楯を付けている。


 鎧は粗末な革鎧を着込んでいた。



 敵の投石や牙や爪の攻撃を、盾と鎧で防ぎつつ、刀で敵を切り捨てている。

 敵の攻撃にやられて倒れている者が、少し増えている。


 

 俺が受け持っていた敵は、殲滅済みだ。


 治癒能力促進の魔法を遠距離から倒れている者達にかけながら、俺はまだ戦っている者達の動きを見物させて貰う。




 身体捌きや、剣の振り方、敵との間合いの取り方――

 討伐隊の力量には、かなり開きがある。



 強い奴の戦いを見ることにする。

 一番強いのは師匠だ。


 師匠の戦いは参考になる。

 この機会にじっくりと観察して、技を盗ませて貰おう。






 俺が戦いを観察し出してから、五分後――


 敵の投石部隊は玉切れになると、木から降りて近接部隊に加わっていた。



 もう、向かってくる敵はいない。


 討伐隊は敵を、全て倒し終えた。



 ――良い修行になったな。

 俺がそんなことを考えていると、不機嫌そうな怒鳴り声が聞こえて来る。







「オイッ、お前ッ! なに、ボーとしてるんだ。敵と戦いもしないで、ずっと見てるだけだったろ! ったく、何しに来たんだよ。この役立たずがッ!!」



 見当はずれな文句を付けてきたのは、村長のドラ息子のドウイチだった。


 あいつは元々、討伐隊のメンバーでは無かった。

 十二歳未満の子供は、最初から対象外だったのだ。



 ドウイチは『実力は大人にも引けを足らない。それにあいつよりも年上だ。付いていく――』と俺を指さして主張し、強引に付いて来ていた。


 偉そうなことを言うだけあって、ドウイチは最後まで倒れずに戦っていた。




 まあ、そこは立派だと思うよ。


 大人に交じって戦って、遜色なかった。



 だが自分の戦闘で、手一杯だったのだろう。

 俺の活躍と、戦果を見ていないようだ。



 俺は奴の三倍以上は、敵を倒している。


 生意気な糞餓鬼には、『解らせ』が必要だな。


 


 俺は刀に風魔法を纏わせて、剣を振るってそれを放つ。

 風魔法を斬撃として、敵に放つ『空牙』――


 竜の姿の時は、爪を振るって使っていた魔法だ。

 


 ヒュゴォォオオ!!!




 ザシュッ!!!!!


 飛ぶ斬撃は、まっすぐにターゲットへと到達して――

 そいつの身体を、縦に切り裂いた。



 俺の風魔法の刃は、気配を消してドウイチの背後に忍び寄っていた、猿の魔物の身体を半分に切り裂く。





 ドォオンンンン!!!!


 敵の群れの中でも、ひときわ大きな個体が地面に倒れ地響きが起こる。



 俺はたて続けに空牙を放ち、気配を消して接近していた、残りの三匹の猿の魔物を始末した。





 ――魔物の中には、気配を消すのが上手い奴がたまにいる。


 見つけにくいが、感覚器官を魔法で強化できる俺なら、発見は可能だ。

 姿を隠す魔法の精度は個体差があるので、レベルの高い使い手は見つけにくい。


 でも、頑張れば探し出せる。




 ドウイチの奴は、後ろを振り返って驚いていた。

 

「なッ!! ――いつの、間に……」





 馬鹿がアホ面を下げて、驚いていやがる。


「おいおい、何をボーっとしてんだよ。敵がまだ残ってるってのに、油断してんじゃねーよ。クソガキ! お前さ、俺が助けてやらなかったら、死ぬとこだったんだぞ。無理やり付いてきておいて、足引っ張ってんじゃねーぞ。この、役立たず!!」


 がははははっ!!

 

 俺は勝ち誇って笑う。


 クソガキは、凄い形相で睨みつけてくる。

 ――だが、何も言い返せない。


 怒りでプルプルと震えている。




 ――ふう。

 制裁完了。


 俺はひとしきり笑った後で、怪我人の治療に入った。



 ……それにしても、俺の性格は前世から、かなり変ったように思う。


 前世の俺がどんなだったかは、よく覚えていない。


 だが、こうでは無かった。

 



 そう、確か……。


 学校に通っていた時なんかは――


 誰かと張り合っったり、罵り合ったりするのではなく、誰とでも仲良くして、クラスで争いが起きない様に調整する。


 ……そんな奴だったはずだ。

 


 竜に生まれ変わって、百年以上も生きて来た。

 性格も変わるよな――


 それに、この村での俺は『余所者』でしかない。

 集団の中での、立ち位置が違う。


 人との関わり方も変わるか――




 でも、まあ……。


 人との付き合い方が変わっても、魂までは変わらない。

 俺はしつこく睨みつけてくるドウイチを無視して、怪我人の治療を続けた。

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