第57話 多分、避けられない運命







  ギルドの入口近くにて、親父のユニークスキルによってレンタルしてきた、1984年型のJEEP チェロキーに乗り込んだ俺とナギさんは、ジェニファーさんと別れ、朝まで車中泊をする流れになった。


 左側の運転席にかけるナギさんは、今すぐにでも運転したい気持ちがあるのか、どことなくうずうずしている。


 しかし、お酒が入っている以上は、自制を効かせているのか、さっきまではしゃいでいたのが嘘のように、静かに佇んだまま時折水を飲んで酔いを覚ましつつ、朝日をお待ちかねのようだ。


 助手席にかける俺は、時々話しかけてくるナギさんと短い会話を交わしつつ、明日はいったいどうなってしまうのか?


 考えただけで眠れなくなるぐらい、ワクワクを抑えられないのか、それとも単に不安なのか、答えを求めたところでどうにもならなそうだ。


 真夜中にも関わらず、未だにギルドの明かりは消えていないものの、さすがにギルドマスターとの話し合いも終わったのか、母ちゃんの怒号もなくなり、ようやく静かになったが……この流れだと、絶対に母ちゃんと鉢合わせすることになりそうな気がする。


 むしろ気が気でなく、ギルドの入口に向けた視線を固定したまま、母ちゃんに見つかってしまわないか、ビクビクしながらいつもより長く感じる時に身を任せていれば……ああ、予想通りというのか、入口から出てきた母ちゃんとウィルマが、俺とナギさんの乗ったJEEPに真っ直ぐ向かって来たのだ。


 ああ、終わったな……。


 助手席のある右側のドアの前に立った母ちゃんは、これまた怖いぐらいに満面の笑みを浮かべながら、窓をノックしてきたものだから、下手なホラーよりも怖い。


 手動のハンドルを回して窓を開けてから、久しぶりに会った母ちゃんは、開口一番にこう言った。


「トラノスケ、チェロキーに乗って何しとんねん? ナギ、あんたどこで油売っとったんや? ジェニーとはもう解散したんか? ま、ええわ、もう夜も遅いしあんたらもはよ帰り?」


「ウィラ、今日は車中泊だ。この車を代行出来るやつは、今頃大人しくしてるんじゃないか?」


「……せやな、頭冷やして少しぐらい反省しとるとええんやけどな?」


 母ちゃん、敬愛なるクソオヤジとヒナコさんは、ポーカーを楽しんでいたよ。


 二人が反省?……ああ、そうしてるなら今、俺とナギさんの二人で、ここにいるはずもないよ?


 むしろ、母ちゃんは何か察したのか、更に口角を吊り上げているものだから、俺としては今すぐに降りたい……だけど、もう戻れないから、言い訳を考えておかないといけないね。


「ま、ええわ。ほんなら星でも眺めてな、ほどほどに楽しんだらはよ寝な。せや、明日なんやけど……あんま派手にやり過ぎたらあかんで?」


 ああ、やっぱり全て見透かされているのか、母ちゃんの笑顔を前にして、俺は愛想笑いを浮かべるのが精一杯だった。


「ウィラ、お前がそれを言う?」


 一方のナギさんは、母ちゃんの親友でもあるからか、全く動じていない様子であることが、ひしひしと伝わってくる。


「せやな、ギルドマスターはんがな、これ以上ハゲ散らかしたら、そらかわいそうやな」


「お前も散々暴れといてそれか?」


「「HAHAHA!」」


 正直この状況に笑えないのは、俺もそうだし、母ちゃんの後ろに立つウィルマも同じ。


 律儀に母ちゃんと同伴したウィルマは、母ちゃんの暴走を止めることが出来たのかは謎だ。


 むしろ、母ちゃんの援護をしているっぽいし、ウィルマも何か察しているのか、俺に向かって瞬きでモールス信号を送って激励する始末。


 こちらも『ありがとう』と瞬きでモールス信号を返し、ため息を一つ吐きたいところだけど、母ちゃんの居る前でそれは出来ない。


「ほな、うちらはふかふかのベッドで寝るから、おやすみー」


 母ちゃんもギルドマスター相手に一方的な論戦を繰り広げて、疲れ果てたのか、思ったよりも早く解放されたことで、ようやく大きなため息を吐けたのだ。


「トラノスケ、降りるか?」


 全てを悟ったナギさんは、明日訪れる運命を受け入れているのか、まだ少しの迷いの生じている俺に対し、優しく諭すけれど……ちっぽけな男のプライドってものがあるんだよね?


「……そっか、わかった。ウィラに怒られるときは一緒だな」


 そう言って笑うナギさんに釣られた俺は、思わず苦笑いを浮かべるのが精一杯。


 ああ、明日はさ、母ちゃんに怒られる運命だけは、どうあがいても避けられそうにないよ?───。







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