第56話 遠き80年代
◇
グーニーズと言う映画が、前世というものを知らない俺からすれば、いったいどんなものなのかはわからない。
名作冒険劇であるとは、ナギさんとジェニファーさんの口から語られたけれど、ヒナコさんの冒険心を擽るような脱獄劇となれば、結構物騒なお話だ。
ポーカーでミラクルを起こしたヒナコさんにお願いされたことにより、脱獄を手伝う羽目になった俺は、さながらGoonie(間抜けな連中)の一員かもしれない。
あるいは、Goon(金銭で雇われた荒くれもの)と、docks(波止場、埠頭)の組み合わせた意味合いであるのかどうかは、ナギさんとジェニファーさんが、今、俺の目の前で、前世のお国言葉全開で熱い議論を交わしている。
ある意味でヒナコさんに雇われたような俺は、Goon なのかもしれないけれど、いったいどうやって逃走劇を楽しんだらいいのか、さっぱりわからないね? HAHAHA!
「トラノスケ、お前、逃走用の車はどうするんだ?」
ナギさんからの質問に対し、親父からの言伝てをありのままに伝える。
「親父のユニークスキルでレンタルするみたいですね」
「だろうな、1984年型のチェロキーを用意しろって伝えてくれ」
「ええ、俺にはなんのことかわかりませんが、親父にはそう伝えておきます」
「ついでにジェリカン(ガソリン携行缶)もな?」
ナギさんはヒナコさんのやりたいことを理解しているのか、酔いが回っているにも関わらず、とても的確な指示を送ってくれるのだが、ただ単に前世と同じく車を運転したいだけではないのだろうか?
この世界で生まれた俺にとっては、前世の1984年という過去は、想像のできない未来そのものであり、親父のチート的なユニークスキルが羨ましい。
なのに魔王時代の親父と来たら、一切チート級のユニークスキルの類を使ってこなかった。
前世から引き継いだチート級な銃器も、今では時代が追い付いてありふれたものになりつつある中、その身一つで人類と魔族や天使等の亜人たち、そして魔王と勇者の共存する世界を作り上げたものなんだから、いったいどうやったらそうなるんだよ?
チートなユニークスキル無しでそれって、化け物かよ!? 敬愛なるクソオヤジ!
おかげで親父の背中を越える日なんて当分来ることなんてないだろうな。
そんな親父の道楽、もといヒナコさんのお願い事に付き合うことになった訳だけど、ナギさんはノリノリ、ジェニファーさんはため息を付きながらジト目で全面協力は出来ないとの意思表示。
逃走劇を繰り広げる以上は、追いかける側も必要であるからこそ、ジェニファーさんの立場もわかるし、そもそも母ちゃん側の陣営だったからこそ立場を弁えているのかもしれないね。
「トリー、メジャー(ヒナコ)の遊びに付き合うのはいいけど、ほどほどにしなさいよ?」
「ええ、わかっています……ところで、親父とヒナコさん、それからナギさんを止める方法は?」
「うーん、そうね……あなたのママの機嫌次第ね?」
「ジェニー、カスガとヒナコを見くびらない方がいいぜ? 全く懲りないやつだからな?」
「ナギ、あなたこそ人のこと言えないんじゃないの?」
「「「HAHAHA!」」」
ジョークを交わしながら楽しいひとときはあっという間に過ぎていき、いったんここでお開きにして、親父とヒナコさんの居るギルドの座敷牢へと戻り、ナギさんの協力を取り付けたことを伝えれば、ヒナコさんは静かにゆっくりと微笑みを浮かべたのだ。
ああ、普段はクールでポーカーフェイスなヒナコさん、キレたら手のつけられない狂犬なのに、最高の笑顔をみれば、このギャップがかわいくてたまらない……。
ヒナコさんの微笑みに見とれているとき、早速親父は携帯端末のようなものを操作し、ユニークスキルでギルドの外に今回のキーアイテムを召喚した。
親父に促されるがままに、ギルドの外へと出れば、角張っていて武骨ながらもスタイリッシュな、1984年型のJEEP チェロキーがお待ちかねだ。
酒場で存分に飲んだナギさんとジェニファーさんもふらふらしながら到着し、前世で知っている車と再会したことで目を輝かせ、めっちゃはしゃいでいたけれど、それよりも未だにギルドの中で轟く怒号に比べたら、かわいいものかもしれないね?
『……もうええわ! 時間の無駄やからあんたはなんも言わんでええわ! ダンジョンクリアはどうとでもなるんやったらな、今のランクになんら意味もあらへんやろ!? ほんならリスポーン出来るダンジョン内でな、戦って決めてもええんとちゃいますか? カテゴリー毎にな、例えば探索能力、応急手当の技能、状況判断能力、危機回避とか、それぞれ実践して採点すればええんやないか?……いや、そこはなんか言わんか、このボケ!!』
ああ、ギルドマスター、御愁傷様。
前世はアメリカ出身のナギさんやジェニファーさんよりもうるさい母ちゃんだけど、話の筋を通せば静かになるから、どうか頑張ってください───。
◇
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