第55話 明日から始まる冒険劇
◇
歴戦の勇士であるナギさんとジェニファーさんは、共に戦い抜いた敬愛なるクソオヤジとヒナコさんを高く評価している。
先の大戦の英雄が、英雄を知るからこその忖度のない純粋な戦力評価、判断力を持ってしても、戦いとなれば予想通りにはならない。
敬愛なるクソオヤジが、ヒナコさんのミラクルで大敗したことを淡々と伝えれば……。
「「What!?……No kidding!?(えっ!?……マジで!?)」」
お国言葉全開で、ナギさんとジェニファーさんは驚愕。
耳元で叫ばないで欲しい、少しは冷静になろうか?
「Oh my gosh! えっ、嘘でしょ!? キャプテンがボロ負けしたの!? ミラクルが起こらなければあり得ないわ!? ヒナコはとってもクレバーだけど、キャプテンは老獪よ?」
ああ、ジェニファーさんの言う通り、親父は老獪だ。
普段はアレだから想像付かないけど、実戦となったら全くの別人だ。
親父と対峙する奴らが、それはもう可哀想に思えるぐらいに一方的で、いかなる状況下、絶望的な逆境であろうともひっくり返してしまう……今回ばかりは仕方ないけれどね?
引退したとは言えども、未だに親父のことを慕う人々の気持ちはわかるし、絶対に越えることの出来ない高く聳え立つ壁は、最高に頼もしい背中そのものだ……なお、ミラクルだけはどうにもならない模様。
本来ならば、俺は偉大なる親父の跡を継いだことによって、誰にも打ち明けられないような苦しい思いをするところだったのかもしれない。
しかし、そうはならなかった。
あれはそうだな、俺とウィルマが幼き日のことだった。
俺は、偉大なる親父に憧れていた……俺も親父のように、立派な男になって、母ちゃんとウィルマ、グリーンティの姉さん、それとみんなを守ってやる……なんて、ヒーローに憧れるそういう年頃だったんだ。
そんなある日のこと、親父は俺とウィルマに対してこう言ったんだ。
『トラノスケ、ウィルマ……お前らは自分の人生を好きに生きて全うしろ。その為にな……パパ、頑張っちゃうよ? HAHAHA!』
それを有言実行した親父は、俺たちの世代に平和をプレゼントしたもんだからさ、本当に凄いよ。
母ちゃんも母ちゃんでさ、俺とウィルマの将来のため、道を狭めないように政治形態そのものを変えてしまったからさ、こうして自由気ままな青春を送れているんだ。
親父と母ちゃんだけでなく、ナギさんやジェニファーさん、グリーンティの姉さん、そしてヒナコさんと言った英雄たちが、次世代への課題を残さないように奮闘してくれたおかげだよ。
だけどね……自由気ままに青春を過ごしたいのは、なにも俺だけでなく、座敷牢でポーカーを楽しむ親父やヒナコさんも同じでね、偉大なる英雄たちに逆らえないというのはどうなんだろうね?
「トラノスケ、お前の親父がボロ負けしたのはわかった。それで、あたしらのところに来たってことは、そうだな……ヒナコの奴、なにか面白いことを企んでいるってことだろ?」
そんな英雄たちの一人であるナギさんは、予想を大きく外したものの、持ち前の鋭い勘でなにかを察したのだろう。
何よりも楽しげな表情を浮かべ、一枚噛もうとしていることは自明な一方、ジェニファーさんは、ため息を一つ吐き出して、面倒ごとに巻き込まれる運命を静かに受け入れた模様だ。
ここは単刀直入に、ヒナコさんと親父の脱獄を手伝い、刺激的な逃走劇をやってみたいという大それた願いごとは、果たしてどう受け止められるんだろうね?
「HAHAHA!……トラノスケ、ヒナコがなにか前世の映画の話でもしてなかったか?」
「ええ、ヒナコさんが明日、フラッテリー一家のようなカーチェイスをしたいと言ってましたね。ナギさん、ジェニファーさんはなんの話かわかります?」
俺にはさっぱりわからない、親父たちの前世の話だが、ナギさんとジェニファーさんは、すぐにピンと来たのか、右へ左へと視線を泳がせて二人の表情を伺えば、とっても良い笑顔を浮かべながらこう言ったのだ。
「「The Goonies!(邦題:グーニーズ。1985年。リチャード・ドナー監督作) HAHAHA!」」
俺には前世の映画の話なんて、ある意味でおとぎ話のようなものだったけど、二人の表情からわかることは、とてもワクワクする冒険劇なのかもしれないね?───。
◇
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